小型犬投棄事件から考える"ペットの終活事情”
栃木県で発生した小型犬72匹投棄事件の犯人が11月18日、ようやく逮捕された。愛犬家でなくとも怒りがこみあげるこの投棄事件は、動物を管理販売する元ペットショップ店員による犯行だった。しかし事件当初はペット葬儀業者による犯行ではないかと一部で報道がされていた。
葬儀関連のトラブルはペットに限らず、人間でも昔からよく耳にしたが、実際にインターネットで「ペット葬儀 トラブル」と検索すると数多くの案件がヒットする。そのおおくは恐喝まがいの高額料金の請求、火葬と偽り亡骸の遺棄、また一般廃棄物としてゴミの日に捨てるなど、悲しみに暮れる飼い主を奈落の底に突き落とすトラブルばかりだ。なかにはヤクザが遺体処理を隠滅するために移動火葬車を使う凄惨な事件も過去にあった。
不況のあおりで増える、移動火葬業者
現在、全国のペット葬儀業者は600〜800ともいわれ、年々その数を伸ばしている。ペット葬儀業者は大きく分類すると「固定火葬炉を持つペット霊園」「車に火葬炉を設置した移動火葬業者」「ペット霊園と移動火葬車の両方を持つ業者」の3種類にわかれる。一般的な火葬(個別葬)の相場は、小鳥・ハムスター・ウサギなど小動物(体重0.5kg未満)で1万8000前後、猫・小型犬(体重0.5〜10kg未満)で約2万円、中型犬(体重10〜20kg未満)が3万円前後、大型犬(体重20〜35kg未満)でだいたい4万円以上となる(筆者調べ)。
なかでも移動火葬業者は行政に登録しなくても営業ができる地域が多く、資本金が少なくても火葬車1台ではじめられる手軽さからか、参入する者が後を絶たない。不況のあおりで他業種(建築業など)から転業する人も増え、都心部を中心に競争が激化している。一説によると移動火葬業者は200とも400ともいわれ、その数を把握しきれていない。
悪徳業者は淘汰? 現在はサービスの質が問われる
しかし新規参入者が簡単に生き残れるほど甘い世界ではない。長年培ってきた信用がものをいう世界だからだ。需要の多い都内では移動火葬業者は増えたが、以前のようなトラブルはさほど聞かなくなったという。全国の移動火葬車14業者が加盟する日本ペット訪問火葬協会の理事長・髙橋達治氏は言う。
「現実問題、移動火葬車を扱う業者は増えましたが、新規参入してもすぐに廃業するかたも多いと聞きます。私ども協会の加盟業者をご利用していただく約7割のかたがインターネットで探されてご連絡いただいております。例えば業者の名前を入れて検索をすれば、口コミを書いたブログやサイトがすぐに出てきますので、悪い噂はすぐに広がりますし、トラブルをおそれて実績のない新規事業者を選ぶ人は少ないのでは。ここ数年は悪徳業者によるトラブルと言うより、利用した葬儀会社のサービスの質に対する不満や苦情を聞きます。今はそれだけ葬儀業者を選ぶ、飼い主様の目も厳しくなっているということです」
同協会の葬儀業者を利用者する飼い主は、単身者、家族とさまざまだが日常的にインターネットを利用する20〜30代の若い世代が主流だという。火葬する動物は犬、猫、うさぎ、鳥、フェレット、亀、熱帯魚のアロワナとさまざまだ。
また地方より都心部で移動火葬車の需要が高いのは、マンション・アパート住まいが多く、住環境の問題がひとつにはある。ペットの亡骸を埋葬する庭(自分の私有地)がないためだ。近くにペット霊園がなく仕事で忙しいビジネスマン、体が不自由で霊園に足を運べないご高齢の利用者も最近は増えている。
失敗しないペット葬儀業者の選び方
以前のような悪徳業者のトラブルがなくなったとはいえ、完全になくなったわけではない。そこで安心してペットを見送られる業者の見分け方を聞いてみた。
「まず、ペットが生きているうちに葬儀業者を探すことをおすすめします。亡くなってからでは飼い主さまも平常心で正しい判断ができなくなりますので。次に葬儀の種類、価格、サービスなど、自分の希望に合った葬儀業者を探します。ある程度業者を絞ったらインターネットでその業者名を検索します。各業者のホームページに掲載してあるお客様の声(感想や口コミ)ではなく、実際に利用した個人のブログやサイトの口コミを客観的に見てください。検索しても口コミが出てこない業者もあります。また協会の所属会員かなども判断材料の目安になると思います」(前出の髙橋氏)
ペット葬儀業者を選んだら下記の3つを必ず電話で確認しよう(一般的に多い「立ち会いの個別火葬」の場合)。
- 火葬にかかる総額はいくらか
- 火葬炉に入れられるまで見られるか
- 火葬が終わったときにお骨拾いができるか
ペットに心地よく虹の橋を渡ってもらうために
行政の法規制がまだ整備されていないなか、新規参入も含めて玉石混淆のペット葬儀業界。24時間対応や低価格をうたう移動火葬業者など、サービスや価格での競争は激しさを増す。しかしながら利用者の口コミや真摯な葬儀業者の活動により、トラブルを起こす業者は淘汰されてきた。それでも中には心ない業者もいるだろう。
愛情を注いでともに人生を歩んできた大事な家族=ペットを見送るということ。そのペットに心地よく虹の橋を渡ってもらうためにも、トラブルに巻き込まれないためにも、亡くなる前にきちんとした葬儀業者を選ぶことが大切だ。それが飼い主にあたえられた、最後のお世話かも知れない。
(取材・文/タカハシヒカル)