衆院選の裏で金儲けを企む「選挙ゴロ」と「怪文書屋」

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衆議院を解散した安倍総理。総選挙に向け、舞台裏で繰り広げられる動きとは
衆議院を解散した安倍総理。総選挙に向け、舞台裏で繰り広げられる動きとは

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 12月14日投票の衆院総選挙が2日に公示される。その裏にあるのは、国民や党内からの不満の声が高まる前に「あと4年間」を確保したい安倍首相の思惑だけではない。選挙の裏側にはいつも、私利私欲のためにうごめく魑魅魍魎が存在している。

候補者の借金を増やすだけの総選挙

 安部総理がついに「伝家の宝刀」を抜いて11月21日、衆議院を解散した。「アベノミクスの是非を国民に問う」というのが大義名分だが、議員たちにとってはまったく迷惑な話だ。

 特に民主党が政権を取った前々回の選挙で、落選の憂き目を見、前回の選挙でせっかく返り咲いた者には「民意を問うよりも俺たちの生活を考えてくれ」という気持ちだろう。結果次第では再び議事堂の赤絨毯を踏むことができるかどうかわからないし、何しろ選挙には金がかかる。

 おそらく安倍首相は、相次ぐ閣僚の醜聞にもかかわらず、さほど内閣支持率が下がらないことから「いま総選挙に打って出れば、絶対安定多数を確保でき、長期政権樹立への足がかりになる」と考えたのであろうが、その野望のために、「センセイ」と呼ばれ、秘書に導かれる快適な身分を剥奪された者たちの嘆きの声が聞こえてきそうである。

「必ず当選させます」と候補者に近づく選挙ゴロ

 だが、選挙資金の捻出に四苦八苦する議員たちを尻目に総選挙で一儲けを企む輩がいるのだから世の中は実に面白い。

 国会議員の周辺には「政治ブローカー」「業界紙記者」「情報屋」「マニフェスト屋」「怪文書屋」「イカサマ占い師」などといった怪しげな連中が常にまとわりついている。この中には、「選挙は絶好の金儲けのチャンス」とばかりにほくそ笑む者もいる。

 その代表が「選挙ゴロ」だ。イメージ戦術、票読み、人員配置といった選挙ノウハウを武器に、候補者を当選させることを謳い文句にして関係者に近づく。彼らは「選挙参謀」「当選請負人」「選挙プランナー」「選挙コンサルタント」などと称し、「必ず当選させてみせます」と吹聴して、選挙に不慣れな新人やまだ地盤が脆弱な「陣傘議員」などのもとに入り込む。

 本来なら秘書が仕切るのが理想なのだが、そうしないことにメリットもある。万が一、買収などの選挙法違反を起こした場合に「あれは秘書でもないし、総括主宰者でもない。単なる末端運動員だ」などと言い逃れができる。また、秘書の場合、警察の手に落ちる前に「逃亡」させるのも難しい。その点、外部の人間なら、危なくなったら「雲隠れ」させてしまうこともできる。選挙ゴロは、選挙違反と逃亡のプロでもあるのだ。

5000万円の買収資金を「持ち逃げ」された候補者も

 では、下手をすると選挙違反で逮捕されるかもしれないのに、どうして彼らが危ない仕事を引き受けるのかといえば、うまく立ち回れば大金が転がり込むからだ。

 いかなる名目であろうと、選挙運動員に報酬を払うことは公職選挙法で禁止されているから、選挙ゴロといえども報酬を要求することはできない。だが、それは表向きの話で、彼らが選挙を「商売」にしている以上、当然ながら報酬がないと成り立たない。選挙ゴロも報酬を要求するし、選挙実務では、ほとぼりが覚めた頃を見計らって金を渡すのが常識だ。

 それだけではない。ことさらに不安を煽り立て、候補者に買収資金を用意させ、その一部をかすめ取ることもできる。手口はこうだ。夜の選対委員などで「おい、俺の票読みだとこのままじゃ競り負けるぞ」などと騒ぎ立て、「そうだ。◯◯のところにまとまって×××票ある。あれをこっちにもらえば逆転する。それには実弾がいる。俺が話をつけるから、代議士よう、△△△万円用意してくれねえか?」などと言って候補者に買収資金を用意させる。そして、その一部または全部を懐に入れてしまうのである。

 もともと違法な目的の金だから、たとえ横取りされても、候補者は警察に訴えるわけにいかない。実際、まだ中選挙区時代の話だが、筆者の知人の歯科医が何を血迷ったか、強豪揃いの茨城県南部の選挙区から立候補したのだが、「選挙参謀」と称する者に買収工作資金5000万円を持ち逃げされ、落選の憂き目に遭っている。

金をもらって敵陣営のネガティブ情報を流す「怪文書屋」

「業界紙」というのは、どんな分野にも成立し得る。当然、国政、県政、市政を問わず政治の世界にもある。「◯◯を弾劾する」などというのは綺麗事で、本来の目的は購読料や広告費、賛助金などを巻き上げることにある。

 彼らは、いざ選挙となれば、すかさず「怪文書屋」に豹変する。金をもらい、敵陣営を「奴はもとからの日本人ではない。帰化人だ」とか「就職の面倒を見ると称してあずかっている後援会幹部の娘は実は奴の愛人だ」などと書いた怪文書を選挙区じゅうにバラ撒くのである。これが人気商売の政治家には大きな痛手となる。

 こういった怪文書屋の動きを利用する「便乗組」もいる。最も悪質なのは、筆者が短期間仕えたU代議士のようなケースであろう。たまたま事務所に舞い込んだ敵陣営の怪文書を「これ幸い」と大量に印刷して、秘書に選挙区内の家々にポスティングして回らせていた。

ネットでの選挙運動解禁で怪文書屋の動きも活発に

 筆者が最初に使えたI代議士の先輩秘書には、開発行為の口利き料を懐に入れたことが発覚して激怒した代議士からクビを言い渡され、敵陣営にまわり、「Iの野郎は変態で、SMクラブの会員だ」とか「若い頃、下着ドロで捕まったことがある」などと、あることないこと書いた怪文書をバラ巻いて票を減らすことに躍起になったのだから、金の恨みは実に恐ろしい。

 今回の選挙ではインターネットによる選挙運動が解禁になったが、もちろん、こうした選挙ゴロや怪文書屋はネットを使った作戦にも抜かりがない。さて、どんな誹謗中傷合戦が起こることやら——。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(彩図社)など。

(Photo by Dick Thomas Johnson via flicker)

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