LGBT向けに本当に必要なのは“不幸度”調査よりも幸福度調査(後編)

デイリーニュースオンライン

日本では間違ったLGBTへの認識が……
日本では間違ったLGBTへの認識が……

【ゲイリーマン発 日本のリアル】

 実際に日本に暮らすゲイは普段何を考えているのでしょうか。ここに、2012年に電通総研が行った面白い調査があります。

 題して「電通総研LGBT調査2012」。興味深い部分を抜粋します。

 対象者のLGBTたちの回答の内訳を見てみると、以上の結果となります。LGBTの中でゲイ、バイセクシュアル男性に絞ってみても、ほぼ同じ割合という結果です。

 つまり、約半数の人は特に現状に強い変革要望を持っていないということです。要望や注文を持っている人たちの要望内容まではこの調査ではわかりませんでしたが、3割の「どちらかといえばある」、2割の「非常にある」の人たちも、それがLGBTの施策に関することとは限りません。

 また、ヘテロセクシュアル向けの調査でも、LGBTを「理解できる」と答えた人の割合は20.7%、「まあ理解できる」は48.7%と、合計で約7割の人が理解を示しています。

 この調査は20代以上のLGBTを調査対象としているので、おおまかに言って日本の大人のLGBTは「身の危険を感じるようなことはあまりないし、現状の社会に憤慨するほどでもないけど、なんとなく今よりも良くなればいいのにな」くらいのスタンスで生活をしていることが垣間見られるのではないでしょうか。

 自身も大人のゲイの一人として生活を送り、同年代のゲイの友人が多い筆者の肌感覚も、実はこれらの数値結果の実態に近いと考えています。

LGBTの”不幸度”調査から幸福度調査の時代へ

 LGBTの自殺を考えた経験を聞く調査や、日頃受ける差別の実態を探るアンケート調査は、ここ数年でかなり行われてきました。その多くは、日本のLGBTがいかに辛い目に遭っているかを数値化することを目的としており、これらのデータを使って社会や政府に何かしらの要望をすることには一定の効果があったかと思います。

 ただ、一方で目を向けなければいけないのは、今現在、孤独感や疎外感によってうまく自尊心を築けないでいるLGBTの子どもたちや若い世代のことです。

 上記で示したような日本型の「同性愛者を露骨に攻撃はしないものの、存在しないもののように扱う」という風潮で一番割を食うのは、学校や家庭という狭い人間関係しか持てず、同じセクシュアリティの仲間とまだ出会うことができていない当事者の子どもたちです。

 彼らに、当のLGBTの大人たちが「日本ではLGBTは差別されていて辛い」「日本はLGBTにとってひどい世の中だ」とあまりに主張しすぎるのは、当事者の子どもたちに暗い未来を予感させてしまうのではないでしょうか。

 私はLGBT全体のことはよくわかりませんので無責任なことは言えませんが、成人し、学校を卒業し、自分の仕事を持って、同じセクシュアリティの友達もいる一都市生活者のゲイとして言うのであれば、今の生活はそれなりに楽しいし、充実しています。

 私の周囲のゲイの友人たちも、だいたい同じようなスタンスです。過去には辛い思いもしたけど、大人になって自由に時間やお金を使えるようになってからは人生が楽しくなった、という発言をする友人は実に多い。

 幸いにしてここ日本では、よほどのことがない限りゲイであるが故に暴力を振るわれることもありませんし、格差社会と言われる中であっても、日本はまだまだ多くの人たちが自立して生活できるくらいの収入を等しく得ることができる豊かな社会です。

 それに、東京には世界最大規模のゲイタウン、新宿2丁目があります。週末には毎週ゲイやレズビアン向けのパーティが開かれ、都会にある大学のほとんどにLGBTサークルが存在しています。

 大人になれば、同じセクシュアリティの友人たちと出会える舞台がたくさん用意されています。私自身も、ゲイであるが故に違った職種や業種の友人と自然に出会えるし、彼らからいつも良い刺激をもらったり、時には仕事やプライベートでの様々な悩み事を話しあったり……。

 何度も言います、私はLGBT全体のことはわかりません。ただ、日本の大人のゲイに限っては、日本はそれなりに住みやすく、ゲイにとっては楽しいところなのではないかと思います。

 そこで、一度大人のLGBTを対象とした「幸福度調査」を行ってみるのはどうでしょうか。国際比較などができても面白いかもしれません。

 社会全体では日本の幸福度調査結果はあまり良くないという話も聞かれますが、これらの背景を考えると、ゲイに限って言えば日本は他国よりも意外と高い数値が出る可能性があるのではないでしょうか。

 今は悩んでいる子どもたちに、「大人になればしっかり幸せに生きていけるんだよ」という背中を、今の日本の大人のLGBTが示していくべき時が来ているのではないでしょうか。

(photo by Julie Missbutterflies via flickr)

LGBT向けに本当に必要なのは“不幸度”調査よりも幸福度調査(前編)

【注意】筆者はあくまで現代日本の大都市在住の男性同性愛者で、周囲にも似た基本属性の友人がたくさんいます。ですので、私の見ている世界は限定的なものであり、地方在住の方や、トランスジェンダーの方の立場に立った記事を書くことは困難です。あくまで「現在の東京に在住の一アラサーゲイの視点」として、ご理解いただければと思います。

著者プロフィール

ゲイライター

英司

東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)

筆者運営ブログ/陽のあたる場所へ ―A PLACE IN THE SUN―

「LGBT向けに本当に必要なのは“不幸度”調査よりも幸福度調査(後編)」のページです。デイリーニュースオンラインは、ゲイリーマンLGBT社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧