【解散総選挙】各政党で違う「マニフェストの正しい読み方」

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「身を切る改革」という公約の実現可能性は?(画像は維新の党公式サイトより)
「身を切る改革」という公約の実現可能性は?(画像は維新の党公式サイトより)

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 12月14日の衆議院総選挙に向けて各党の政策が発表されている。選挙前には必ず目を通したいところだが、その主張は額面通りには受け取ってはいけない。マニフェストの「読み方」は、政党により大きく異なるのである。

「マニフェスト」の存在感が薄い今回の総選挙

 目下、選挙戦もたけなわだが、メディアの情勢分析によれば自・公の大勝利は動かないところだろう。

 ところで今回の総選挙では、どの政党も過去10年余の国政選挙で政権選択の道具としてきた「マニフェスト(政権公約)」を前面に押し出していないことにお気づきだろうか。

 マニフェストは、英国の保守党党首で首相のサー・ロバート・ピールが1835年の総選挙で使ったのが起源だ。日本では2003年(平成15年)1月に北川正恭三重県知事(現早稲田大学大学院教授)がシンポジウムでその導入を提唱したことをきっかけに、同年11月の総選挙で民主党が初めてマニフェスト選挙を展開。その年の流行語にも選ばれた。

 従来の「選挙公約」と違うのは、単なる抽象論ではなく、具体的な政策の数値目標や達成期限、財源などを明示することに特徴がある。

 ということは、その政党が首尾よく政権を獲り、候補者が当選したあと、さてどれだけ実現できたかを有権者が事後に検証できることになる。だから、あまり綺麗事ばかりを並べ立てると、自分で自分の首を締めることにもなりかねないのである。

政権交代したものの3割しか実現できなかった民主党

 その典型が民主党だろう。民主党は2009年(平成21年)の総選挙で中学生以下を対象とした子ども手当の給付、最低保障年金の創設、高速道路の無料化など、有権者が大喜びしそうなことばかり並べ立てたマニフェストを掲げ、首尾よく政権交代を果たした。その時「まさか政権が転がり込むとは思わなかった。大風呂敷を広げたのはいいが、これは困った」と、当時の民主党幹部は密かに頭を抱えたのではあるまいか。

 案の定、讒言の見通しの甘さから公約の約3割しか実現できず、有権者から「嘘つき」と愛想を尽かされ、2012年(平成24年)の総選挙では惨敗。政権から転落している。

 そんなことに懲りたのか、今回の総選挙では、マニフェストから距離を置く政党が少なくない。民主党でさえ、マニフェストの名称は付けたものの、ほとんどの政策で数値目標を見送っている。

 怪しげな「大阪都構想」を看板にし、「一院制」や「首相公選制」の導入など、なにかと誇大妄想癖のある維新の党でさえ、前回選挙の「維新八策」のような演出はしておらず、マニフェストは確実に「死語」になりつつある。

維新の党「身を切る改革」の現実度は?

 なかには、誰が考えても、単独では絶対に政権の座に着くことがあり得ない政党がある。例えば維新の党、社民党、共産党などの類だ。過去に政権を担ったことがある民主党でさえ小選挙区と比例を合わせ198名しか立候補していないのだから、仮に全員が当選したとしても同じこと。要するに、自・公以外は政権を獲る見込みはまったくなく、後から有権者の評価に晒されることもないのだから、どんな嘘八百でも並べられるわけだ。

 例えば維新の党。相変わらず憲法改正しないとできない「首相公選制」や「一院制」の導入を掲げているが、維新が衆参両院で総議員の3分の2以上を占めることなどあり得ないのだから、大法螺もいいところだ。

 また、「身を切る改革」を訴え、「国会議員の定数と給与を3割削減し、国家公務員と地方公務員の人件費の約25億円を2割カットして5兆円を捻出し、その金を景気対策に使う」などと主張しているが、衆参ともに最高裁から「違憲状態」の判決を突き付けられながら1票の格差の是正すらままならないのに、歳費の削減はともかく、国会議員の定数を大幅に減らすことなど、そう簡単にできるわけがない。

 公務員の給与を2割カットなど、なおさら不可能だ。現行制度において公務員の給与は、労働基本権が制限されている代償として、公平な第三者機関である人事院(地方公務員は人事委員会)の勧告によって決められる。最高裁も「人事院勧告制度があるから、公務員の労働基本権を制限しても違憲ではない」と判旨している。

 もしこの制度を変えようとすれば、当然、公務員にも団結権だけでなく、団体交渉権や争議権(団体行動権)まで与えなければ「違憲」になってしまう。

 その結果、公務員の給与は民間と同様、労使の団体交渉によって決まることになり、国や地方自治体が一方的に「2割カット」することなどできないことになる。

 要は、維新の党はじめ、生活、次世代、共産、社民などの選挙公約はまったく実現可能性のない絵空事ばかりを並べた、単なる「作文」にすぎないということだ。

政権与党と弱小政党とではマニフェストの読み方が違う

 その点、今後も引き続き政権を担う可能性が限りなく高い自・公両党は、実現できないと有権者を欺くことになるから、あまりいい加減な公約は掲げられない。抽象的にもならざるを得ないし、有権者に対するアピール度にも欠けるが、堅実で実現性が高いことは間違いない。逆に、弱小政党の場合は多少の——あるいは大幅な「割り引き」が必要になる。理想論を額面通りに受け取って、痛い目を見るのは有権者である我々なのだ。

「マニフェスト」という言葉を使うか「選挙公約」にとどめるかは別として、政権を獲る見込みの高い党と、可能性が著しく低い党とでは、違った“読み方”をしなければならないことを有権者は忘れてはなるまい。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。
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