日本の3DCGが目指す先とは? 荒牧 神山監督が語る新『アップルシード』

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日本の3DCGが目指す先とは? 荒牧 神山監督が語る新『アップルシード』

『攻殻機動隊』などで知られる士郎正宗さんの伝説的SFコミックを原作とした劇場版3Dアニメ『APPLESEED α(アップルシード アルファ)』が、1月17日(土)から全国で公開される。

公開を週末に控えた1月13日、「ぴあ映画生活チャンネル」のニコニコ生放送では公開記念特番を実施。本作の監督である荒牧伸志さんをはじめ、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズや『009 RE:CYBORG』を手がけた神山健治さん、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんという、豪華ゲストの共演が実現した。

3名によるトークでは、フル3DCGアニメーション作品としての技術的なポイントや、かつて荒牧監督が手がけた劇場版『アップルシード』前2作との違い、さらには日本でも盛り上がりつつあるアニメ制作におけるCG表現の可能性にまで言及。

長年のファンはもちろん、『アップルシード アルファ』からシリーズに触れる視聴者も楽しめる、内容の濃いトークが繰り広げられた。

「アップルシード アルファ」本予告



前日譚としてのリブート セルルックから実写的表現への挑戦
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続編ではなく、あくまでも“ゼロからのスタート”」──それが、番組冒頭、荒牧さんが示した本作の位置づけだ。

「理想都市・オリュンポス」や「人類再生計画」といった、シリーズを通じて語られる要素を一度排除し、主人公の女性・デュナンとその恋人の全身サイボーグ男・ブリアレオスにフォーカスした、いわば原作の前日譚にあたる物語が『アップルシード アルファ』だという。

エンターテインメント性は重視しつつも、サイバーパンク的な退廃性なども取り入れ、前日譚として独自の解釈が施されている。随所に原作の要素も散りばめられた本作は、海外では2014年に一足早く公開済み。世界的に熱烈な支持を集める士郎正宗作品の3度目となる劇場アニメ化だが、ファンからは高評価を得ているようだ。

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2012年には自身も『009 RE:CYBORG』でフル3DCGに挑戦した神山さんは、本作のCG表現に言及、「すごく見やすかった」と語った。『APPLESEED』(2004年)、『EX MACHINA -エクスマキナ-』(2007年)と比較して、より実写に近い「フォトリアル」という表現手法の進歩を実感。ライティングの面白さなど、従来のアニメ表現とは異なる魅力を感じたという。

荒牧さんとしても、「以前は、日本ではアニメっぽさを残す“セルルック”が主流だったけど、今回は実写的な見せ方でどこまでやれるのか?」と、挑戦的な部分があったようだ。

まさにそのセルルック表現の最前線を提示した『楽園追放 -Expelled from Paradise-』の監督・水島精二さんから、本作に対して「萌えを廃したキャラクター造形」とコメントされたことも明かした。

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一方、氷川さんは「ピクサーが切り拓き、世界の潮流となっているフォトリアル表現に反して、日本だけがセルルック」と、現在のアニメのトレンドを解説。

とはいえ、CGによる人間の表現にはどこも苦労しており、リアルさを追求する過程で見ている方が気味悪く感じてしまう“不気味の谷問題”の解決には至っていない。だからこそ、フォトリアルで人間を表現した本作の価値は高いという。

氷川さんも、神山さん同様、ライティングを「凝っている」と高評価。加えて、光を通じて表現される質感の違いは、「フィギュアファンやミリタリーオタクにとっては大きな見所になるのではないか」と話した。

キーワードは視線誘導──胸部の露出度が高い理由とは?
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最も盛り上がっていたのが、デュナンのコスチュームに関する「なぜ胸だけアーマーがないのか?」という話題。こうした声は海外からも多く寄せられているようで、荒牧さんいわく「もともとはもっと露出度は高かった」という。

当然、士郎正宗さんからNGを出され、その都度「ズボンを履かせて、肩のアーマーを足して……」と、順番に着せていった結果、現在のデザインに落ち着いた。ただし、「(今の状態で)OKが出ていたかは怪しい(笑)」とのこと。

自身も士郎正宗原作作品を手がけた神山さんは、「自分だったら露出しているイメージは残したい」としつつ、『攻殻機動隊 S.A.C.』のときに同じく士郎さんから「(主人公・草薙素子の)ハイレグはおかしい」「TPOをわきまえて」と注文をつけられたことを明かした。

その後、「CGの場合、アクションがあると(余計に胸に)目がいきやすいですね」という氷川さんに対し、神山さんから「攻殻(機動隊)でいう“視線誘導”ですね!」と絶妙のコメント。ユーザーからの反響も大きく、最終的に視聴者プレゼントのキーワードを決める際に、即座に「視線誘導」のコメントが流れるなど、番組を象徴するフレーズになった。



最高峰の3DCG技術を支えた元フランス外人部隊兵
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本作を語る上で外せない3DCG表現。なかでも、キャラクターの表情を描くにあたっては、アクターの顔におよそ30個のセンサーを付けるフェイシャルキャプチャーを採用。モーションキャプチャーによって体のアクションを収録したあとに、アクションに合わせて表情を別録りしたそうだ。

2007年の『エクスマキナ』、そして2013年に荒牧さんが監督したフルCGの劇場版アニメ映画『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』に比べ、荒牧さんご自身は「表情の再現精度は格段に上がっている」と、手応えを感じているようだ。

加えて氷川さんは「銃を持つ人がリアル」な点も見所のひとつと語る。荒牧さんによれば、今回ミリタリーアクションアドバイザーとして参加している細川雅人さんの功績が大きいという。それもそのはず、細川さんは元フランス外人部隊兵。本格的な銃の持ち方はもちろん、荒牧さん曰く「銃を構えたときの殺気がある」。デュナンの銃を持っての動きでは、細川さんが活躍する場面も多かったようだ。

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一方で、話は作品からCG表現全般へと発展。「CGで女性のほうれい線を出すのはNG」など、美人・イケメンほどCGで表情をくずすのが難しいという、ならではのトリビアも語られた。

そんなCGと実写のボーダーへの言及のなかで、神山さんは「CG(アニメ)と実写では意味性が違う」とコメント。例えば、アニメはそもそもが架空の世界であるため、少し本物に近い描写を加えるだけで、“リアルに近づく”。一方、実写は現実をリアルに描写することで、かえって嘘が多くなってしまうという。

いまや素人でも簡単に動画を制作できる環境にある中で、ネット上には多くの面白い映像があふれている。それが単純な内容だったとしても、面白さや痛さも伝わってくる。そういった(あまり編集・演出されていないからこそ)リアリティの高い映像の一方で、実写でドラマ(作品)を撮ることの難しさがどんどん上がっているそうだ。「作品としてカット割りを用いることが、逆に“つくり物”という印象を与えてしまうこともあるのでは?」と、実写表現の難しさを語った。

神山さんが「映像におけるリアリティのデフレ」と称した現象には、制作環境の変化が影響しているようだ。要するに、技術の向上によって実写作品の可能性が広がる──すごい映像が撮れる──ほど、リアリティがなくなっていく。荒牧さんも映画『ゼロ・グラビティ』を例に出して、その意見に賛同しつつ、「そうなると、スマートフォンやGoProなどで撮影した素人作品のほうが、リアリティを感じられる」と、技術の進歩が招いたジレンマを明かした。

ストーリーに合わせた表現の選択・融合ができる“楽しい時代”
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昨今、国産アニメでも増え始めている3DCG作品。ただし、神山さん曰く、海外と比べると制作予算の段階で「10分の1から100分の1くらいの差がある」のが現状。日本でも将来的には、素材として使いまわせる部分をストックしたり、ゼロからつくる要素を減らすことで、よりCGでの表現が取り入れやすくなるという。

とはいえ、表現の幅が広がっていることは間違いない。荒牧さんも現状を踏まえ、これからの作品づくりに対して抱負を語っている。

さまざまな手法の選択・融合を通じて、ストーリーに合わせた表現ができるようになっている。そういう意味では楽しい時代。まだまだCG作品は数が少ないので、どんどん作品をつくって(視聴者に)慣れてもらいつつ、そのうえで表現の可能性を見せていきたい」(荒牧さん)

なお、注目の続編については「皆さまの応援次第」とのこと。

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番組内ではこのほかにも、英語版と日本語版のセリフの違いにも言及。脚本を担当したのは、ゲーム『God of War』シリーズなどに参加するマリアンヌ・クラヴジックさん。英語の脚本となれば、アクターのセリフも当然英語。日本版の制作にあたっては、英語から日本語という直訳ではなく、より面白さが伝わりやすいように、原作よりのセリフを取り入れるなど、シーンによっては大胆に変更した部分もあるという。英語・日本語での表現の違いに注目しても面白いかもしれない。


『アップルシード アルファ』は、1月17日(土)から新宿バルト9・梅田ブルク7ほか全国で公開(同日Blu-ray劇場限定版)。通常上映のほか、荒牧さん自身が「いろいろリクエストした」という、視覚だけではない体験型の4DX版を鑑賞するのもオススメだ。
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