ロック漫画家・梅澤春人『妖怪伝奇Roku69Bi』がヤバい

デイリーニュースオンライン

グランドジャンプ公式サイトより
グランドジャンプ公式サイトより

 Amazonにて「Kindle無料マンガ雑誌」なるサービスが始まっています。これはKindle端末やスマホ、タブレット、PCで閲覧できるサービスで、グランドジャンプ、漫画アクションなど幾つかの雑誌が無料で配信されるというものです。

 そして、そのグランドジャンプで「ロック漫画家」として名高い梅澤春人先生の新連載『妖怪伝奇Roku69Bi(ロクロックビ)』が始まったのです。

 梅澤春人先生の代表作は『BOY』『無頼漢―ブレーメン―』『カウンタック』、そして一部のコアファンを魅了した『SWORD BREAKER』です。梅澤先生はDQN描写に定評のある作家として知られ、魅力的な外道キャラを多数描いてきました。

  • 女教師を半裸にしてスタンガンでバチバチして「踊れ……踊れ~!!」「『スタンガンダンス』だ」と息巻くDQN
  • 相手をデッドボールで殺すことを目的とした魔球「ファックボール」を操る野球DQN
  • 中学生だから人を殺しても問題無いと考え「殺人上等(コロシジョートー)──! オレらは無敵の“未成年”様だぜ!!」とのたまう低知能DQN集団
  • 巨大アナコンダを操るDQN
  • 熊を操るDQN

 などです。また、その完成度の高いDQN言語もファンの心を鷲掴みにしており、

  • 「親のサイフから引っぱって来いっつってんだろ!! また殴られてえのか──!」
  • 「いいかコゾー! 今月中にこいつら三人の治療費50万円持って来い!! できなかったらテメーの臓器売ってでも金作らせっからな──!!」
  • 「ランナーを刺す! 殺す!! デッドボールにスライデイングタックル── 野球ってのはなめてかかると大ケガする怖いスポーツなんだぜ! わかったかタコども!!!」

 など、妙にリズミカルで声に出して読みたくなる美しい日本語を多数生み出してきました。北斗の拳でモヒカンザコが大人気であるように、様式美を極めたゲスな三下は読者の心を掴むものです。

 そして、梅澤先生と言えば欠かせないのがロック。「BOY」は主にDQNを殴り倒す話でしたが、主人公メンバーの一人にロッカーがおり、ロックが話の核となるシリーズもありました。そして、「無頼漢」ではさらにロックが深まり、主人公たちがロックバンドを組みDQNと戦う話へと発展。その「無頼漢」に出てくる敵のロックバンド「サイクロプス」の歌詞が当時のジャンプ読者を慄然とさせたこれです。

殴(や)れ! 刺(や)れ!
犯(や)れ! 殺(や)れ!
壊(や)っちまえ────!!!
愛? 平和? 正義? 自由?
そんなもの…クソ喰らえだ!
そんなものは見えやしね─────!!
「PSYCLOPS」の目にうつるものはただ一つ!!
破壊───(デストロ───イ)!!!

 この、なんと言うべきか、とにかく凄まじいセンスであり、興奮した一部のコアファンが思わず楽曲化するなどして、梅澤ファン界隈は当時凄まじい盛り上がりを見せたものです。

デストロイのうた

 梅澤先生にしかなしえない、このオリジナリティ溢れるセンスをファンたちは「ロック」と呼び、梅澤春人先生を「ロック漫画家」と呼ぶに至りました。作品が変われど一貫してロックしてケンカしてレイプし続ける梅澤ワールド。

 その転機となったのが『SWORD BREAKER』という作品でした。これまで現代社会を舞台にDQNを描き続けてきた梅澤先生がファンタジー世界へと舞台を移したのです。

 ファンたちは騒然としました。ファンタジーが舞台ではDQNは出てこないのではないか? レイプはあるのだろうか? ケンカは? ですがファンたちの不安もすぐに杞憂と分かりました。ファンタジー世界にもかかわらず、『SWORD BREAKER』には梅澤春人先生のセンスが詰まっていたからです。

 とにかくすごいデザインの敵幹部「グリードさま」や、殺した人間の頭蓋骨で塔を作り「オレが留守の間も人間はバンバン殺し続けろよ!」とのたまう七剣邪の一人「グルトニーさま」、敵の本拠地が「魔城ガッデム」という圧倒的ネーミングセンスなど、舞台がファンタジーであろうと知ったことかとばかりに梅澤先生は己のロックを貫いたのです。

新たなるロック神話の幕開け

 そんな梅澤先生がグランドジャンプで仕掛けた新たなるロック神話。それが「妖怪伝奇Roku69Bi(ロクロックビ)」です。

 現在、Kindleで読める無料配信版では5ページのプレ連載版が掲載されています(グランドジャンプのHPでも読めます)。

グランドジャンプ新連載試し読み『妖怪伝奇Roku69Bi』梅澤春人

 本作は主人公である妖怪のろくろっ首が現代社会へ仮釈放される話ですが……、

  • 明らかにAC/DC(オーストラリアのロックバンド)を意識したタイトルロゴ
  • 主人公の名前が「69(ロック)」
  • 「ゲヘヘヘ」と笑うモブ妖怪のすごいデザイン
  • 「クソヤローどもをぶち殺しまくろうぜ!!!」のセリフが付いた一枚絵

 などなど、たとえ作者名が書かれておらずとも、いえ、たとえ絵が付いていなくとも、一目で梅澤春人と分かる圧倒的個性に満ちた5ページとなっています。

 紙のグランドジャンプの方では既に第一話が掲載されており、主人公の69が不良妖怪たちから人間を守る方向で話が進んでいくと思われます。不良妖怪、つまりDQNが現れてDQN行為の限りを尽くし、それを「クソヤローどもをぶち殺しまくろうぜ」と主人公がぶちのめしていくロックな物語が繰り広げられることでしょう。

 一話から既に、警察と書いて“クソ”とルビを振るナチュラルなロックが見られ、今後さらに高まるであろうロックに期待が膨らみます。

 現役のアバル信徒(『SWORD BREAKER』の熱狂的ファンのこと)として知られるKAJIMEさんは、筆者の取材に対し次のようにコメントしました。

「青年誌に移ってから『カウンタック』『ビーストホイラー』と梅さんのロックは抑えめの時期が続きましたが、『Roku69Bi』はプレ連載と1話を読む限りでは久しぶりにストレートなロックを感じさせ、昔のジャンプを彷彿とさせる作品だと思います。『BOY』『SWORD BREAKER』『LIVE』あたりを読んでいた当時のファンたちは昔を懐かしみながら楽しめるのではないでしょうか」

 グランドジャンプで梅澤春人先生のロックを応援しよう!

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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