【川崎・男子中学生殺害】犯人情報デマ拡散で“マスゴミ化”するネット

デイリーニュースオンライン

容疑者が明らかになっていない段階でネットが暴走している
容疑者が明らかになっていない段階でネットが暴走している

 2月20日に川崎市の多摩川河川敷で中学校1年生の上村遼太君(13)が無残な姿で見つかった殺人死体遺棄事件。高校生をふくむ8人組の不良少年グループが関与しているといわれているが、相手が未成年ということもあって警察の捜査やメディア報道が慎重になっており、もどかしさを感じている人は多い。

 その苛立ちが一部ネットユーザーの正義感を暴走させ、「犯人」とされる複数の少年の実名や顔写真が拡散される事態となっている。

ネットに真偽不明の「犯人情報」あふれる

 週刊誌報道などによって断片的に加害者グループの情報は伝わってきているが、いまだ警察は犯人を特定する情報を発表していない。また、事件の背景についても全貌は明らかになっていない状況だ。

 にもかかわらず、ネット上では同月19日に横浜・野毛山公園の男子トイレで14歳の男子中学生が暴行された事件との関係がまことしやかにささやかれている。この暴行事件が発生した直後、被害者の知り合いと見られる人物が犯人を探すためにTwitter上で情報拡散していた。その中に「犯人は川崎の殺害事件とも関係がある」といった内容が含まれていたため、同一犯行グループによる事件との見方が浮上。さらに、加害者の少年とされる人物の写真や事件に関与しているという女性の画像などが実名とともに拡散されている。

 その一方、Twitterには事件に関与しているとされる女性の姉を名乗るアカウントが登場。そのツイートによると、二つの事件は全く無関係だったが、上村君が野毛山の事件の犯行グループの一味と誤解されて「人違い」で殺害された可能性があるという。また、野毛山のグループと川崎の不良グループの間に何らかの因縁があったとの憶測も流れた。さらには加害者の少年が「在日コリアン」であるとのウワサも飛び出し、それがヘイトスピーチにつながる状況も生まれている。

 だが、いずれにせよ根拠は乏しく真偽は全くの不明。報道などで明かされている情報と食い違う部分も見受けられ、まったくのデマであるとも考えられる。しかし、これらの情報はTwitterやLINEで爆発的に拡散され、巨大掲示板「2ちゃんねる」やまとめサイトにも相次いで掲載されており、もはや収拾がつかない事態となっている。

「大津いじめ事件」の二の舞に?

 これと同じような騒ぎは3年ほど前にも起きている。滋賀県大津市の男子中学生が自殺した事件で、その背景に陰湿なイジメがあったことが明らかになり、ネット上で事件関係者のものとされる個人情報が拡散された騒動だ。

 この騒動でも加害者が未成年だったために情報の公開が限定され、それに不満を抱いたネットユーザーが暴走。ネットには加害者らの顔写真や実名などが書き込まれたが、全くのデマも多かった。

 加害少年の母親とされる女性や祖父とされる男性、イジメを黙認した担任教師とされる男性らの顔写真や個人情報がネット上にさらされたが、これらは全く無関係の別人だった。その特定の根拠とされたのは「名字が同じ」などといった稚拙なものだったのである。

 また、これらを鵜呑みにしたタレントのデヴィ夫人が自身のブログに画像や実名を掲載。デマを載せたというだけでなく、ネットで有名なネタ画像「チャリで来た」に加害者少年の顔を合成したコラ画像を掲載したうえで、全く無関係の少年を別の加害者少年と名指しするお粗末さだった。

 これらは刑事事件や裁判沙汰に発展し、無関係の人物を事件関係者だとして情報拡散した男性2名が名誉棄損罪で書類送検された。また、デヴィ夫人も加害者の母親だと名指しした別人の女性から訴えられ、損害賠償金165万円の支払いを裁判所から命じられている。

 これらのデマ拡散は名誉棄損の問題だけでなく、人違いで情報をさらされた人物の自宅・勤務先へのイタズラ電話や中傷などといった実害も生み出した。今回も同じように法的な処罰を受けるネットユーザーが出ないとも限らない状況だ。

「マスゴミ」を批判できないネットの無責任

 非道な犯罪は許されるべきではない。だが、だからといってヒーロー気取りで法を逸脱していいわけではなく、ましてや無関係の人物の名誉を傷つけるのは論外だ。

 かねてからネット上では、不確かな情報を基に報道したり特定の人物にリンチを加えたりするメディアに対して「マスゴミ」という蔑称が使われている。しかし、マスコミ批判しているネットユーザーたちも同じように不確定情報でリンチを繰り広げており、無関係の人物にまで深刻な害を及ぼしている。これではネットに既存メディアを揶揄する資格はないのではないかと思えてくる。

 隠された「真実」を暴いたり、悪と決めつけた相手を糾弾する行為は“快感”がある。正義感や義憤から生まれた行動でも、いつしか快感に酔いしれることが目的となりモラルや情報の正確性はそっちのけになってしまう。

 ネットは個人発信であっても立派な「メディア」だ。書き込まれた情報はデマであろうとも半永久的にネット上に残る。玉石混交の情報があふれているのがネットの魅力の一つでもあるが、やっていいことといけないことの線引きは大切だ。

 一般人のしたことだからと許される道理はなく、そこには責任がつきまとう。その恐ろしさを十分に自覚し、暴走しているネットユーザーたちは、無責任な既存メディアと同じ轍を踏まないよう冷静にならなければいけないだろう。

(文/佐藤勇馬)

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