北朝鮮が独裁国家から“途上国”へ…詐欺事件の横行こそ成長の証!?

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北朝鮮では経済犯罪が多発中?
北朝鮮では経済犯罪が多発中?

 世界一の閉鎖国家と言われている北朝鮮。人民はあらかじめ決められた居住地域での生活を強いられ、自由な移動もままならない……。とはいえ、これはあくまでも表向きの話。

 実際は、ワイロをはじめ、あの手この手を使って移動して商売をする。なぜなら、北朝鮮当局の言う通りにしていたら配給ももらえず商売もできず、その先には死あるのみ。なかには、出稼ぎで中国へ行く北朝鮮人も多い。合法的に、ビジネスの許可をもらって訪中する北朝鮮人もいれば、私事旅行という名目で訪中して、出稼ぎをする北朝鮮人もたくさんいる。

 農村での短期労働者や、レストランの厨房やホーム・キーパー。女性の場合は水商売に就くケースも多い。あまり書きたくはないが、風俗関係で働く女性や裏ビジネスに手を染める北朝鮮女性もたくさんいる。

 例えば、2013年頃、北朝鮮女性のアダルチャットを利用した詐欺事件が多発した。いわゆる出会い系などのネット詐欺は、韓国でも横行しているが、これに目を付けた中国人業者が、北朝鮮女性を利用した詐欺を思いついたのである。

 若干の訛りがあるものの、北朝鮮女性たちは基本的に韓国で使用されるハングルを話すことができる。出稼ぎで中国を訪れたからといって、すぐにいい仕事に就けるわけではない。中国人業者、おそらく朝鮮語を話せる朝鮮族がはじめたと思われるが、そうした北朝鮮女性や脱北者を雇って、ネット詐欺で韓国人を騙くらかすわけだ。もちろん、北朝鮮人たちも「いかがわしい業種」であることはわかっていながら、高収入を得られる誘惑につられて裏ビジネスに手を染めていく。もちろん、その稼ぎは北朝鮮にいる家族や親戚に送金される。

 これは、日本に来る出稼ぎ労働の構図とまったく同じと言っていいだろう。根っこにあるのはやはり貧困。貧しい国の庶民が、自分たちの国以上に豊かな国へわたり、裏ビジネスに手を染めるのは古今東西同じと言える。

 その一方で、北朝鮮国内では、資本主義社会顔負けの金銭絡みの犯罪が多発していた。

色仕掛けでカネを巻き上げるオンナ詐欺師も

 先月、北朝鮮当局は、ある地方で次のような異例の警告を出した。

「カネに目が眩んだ一部の女性が社会主義一心団結を傷つけて社会への不信感と不和を煽っている」

 表現自体は、いかにも北朝鮮っぽいが、要はオンナ詐欺師による大型詐欺事件が発生したから気をつけろということだ。実際、北朝鮮の首都である平壌で、華僑商人(北朝鮮で商売をする華僑はいる)から、中国の人民元数万元をだまし取った事件が発生した。また、別の女性は自らの類い希なる美貌を最大限利用して、富裕層の男性から多額の現金を巻き上げたという。

 まさに資本主義社会顔負けのオンナ詐欺師っぷりだ。詐欺だけでなく、どこかで聞いたような猟奇的な事件も起きている。

毒入りスンデを鉄工所幹部に食べさせて殺害!

 これも先月の話だが、北朝鮮北部の日本海側に位置する清津(チョンジン)市で、鉄工所の幹部2人が「毒殺」される事件が発生。犯人は町内の警察官の妻だった。

 毒殺された2人の幹部は、犯人の妻と麻薬取引をしていた。しかし、北朝鮮で泣く子も黙る国家保衛部(秘密警察)に摘発される。発覚を恐れた警察官の妻が、毒入りのスンデ(腸詰め)を食べさせて2人を毒殺した。

 同市では、役所の事務係の女性が、同じく役所の経理担当とグルになって「2年間の外貨稼ぎ」や「建設費」などと称し、地域住民から2000万ウォン(約28万円、コメ4トンに相当する額)を巻き上げてだまし取り逮捕された。

 殺人事件や大型詐欺事件が多発することについて、北朝鮮当局は「凶悪犯罪根絶百日戦闘」などという仰々しいスローガンを掲げているが、住民達は効果なんぞ期待していないという。

 なぜなら、こうした事件の背景にも、やはり北朝鮮独特の慢性的な経済難があるからだ。断っておくが、北朝鮮の庶民達のほとんどは、真面目で慎ましやかな生活を営んでいる。中国で裏ビジネスに手を染める女性達は、貧困から抜け出すためにやむを得ずそうせざるをえなかった。

 一方、国内の詐欺事件、金銭絡みの事件は当局側、すなわち国家サイドの人物が絡んでいる事件が多い。背景には、国家が表向きは有名無実化した社会主義計画経済の看板を下ろせないことがある。

金銭絡みの犯罪増加はフツーの国になった証?

 社会主義国家経済の枠組みにいる層(北朝鮮ではざっくりと「幹部」と表現する)は、中途半端に国家機関に所属しているために、普通の商売ができない。しかし、給料だけでは食べていけず、国家機関に務めるからこそ可能な利権絡みビジネスに絡まざるをえない。

 また、ある程度の幹部になると、収入がなければ配下の部下達も食わせられなかったりする。それでも、やり手の幹部なら極めて合法的なビジネスで儲けることができるが、そうじゃない幹部達は、裏ビジネスに手を染めざるをえないというわけだ。

 しかし、規模の大小関わらず、世界でも有数な治安の良さを誇るこの日本でも、あちこちで、ありとあらゆる裏ビジネスが横行し、詐欺事件も後を絶たない。過去には、金絡みの毒殺事件(保険金殺人)なども起こっている。そうした意味では、北朝鮮が無法化しているというよりは、負の側面も含めて“フツーの国家”に変わりつつある過程で起こる現象なのかもしれない。

 いや、北朝鮮の最頂点にいる金正恩だけが、いくら悪行三昧を尽くしても、決して逮捕されないという点を克服しない限り、普通の国家になるにはまだまだ難しいか。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

(Photo by Roman Harak via Flickr)

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