吉田豪インタビュー企画:紀里谷和明「僕が仮にイケメンだったとしても何のメリットもない!」(2) (4/5ページ)

デイリーニュースオンライン

なんで日本アニメのオマージュは許されないのか?

──当時のアニメと比べたら絵のクオリティも高いですしね。

紀里谷 でしょ? あと、オタク談義でいうと『キャシャーン』も演出は富野(由悠季)さんだったりするんですよね。だから、映画の『CASSHERN』って後半『伝説巨神イデオン』じゃんって言われるんだけど、いやそのとおりですよ、と。

──だからやってるんですよ、と。

紀里谷 これオマージュだから。『キャシャーン』の演出が、全部じゃないけど富野さんなんですよって。そこもわかんないままインタビューでどっかの新聞記者が、すっごい鬼の首を取ったような表情で、「紀里谷さん、私はお聞きしたいことがあるんですけど。『CASSHERN』のエンディング、『イデオン』ですよね!」って、なんか「俺は知っている!」「暴いてやった!」ぐらいの勢いで言ってくるわけ。こっちとしては、「はぁ?」「そうですよ? だから何?」って感じなんだよね。それが庵野(秀明)さんは許されるんだよね。

──ガチオタな人ですからね(笑)。

紀里谷 だって『エヴァ』のエンディングは『デビルマン』じゃん! 本人もそうだって言ってるし、そんなことやりまくってるじゃないですか。タイトルのフォントだって、これ市川崑さんじゃんって感じじゃん、あの人はOKなのに、なんで俺ダメなの?

──やっぱり顔ですよ(笑)。

紀里谷 あと『フリクリ』とかも大好きなんだけど、終わりのほうになるとオマージュばっかりじゃねえかよって感じだしさ。なんで許してくれないのか、なんでそのコミュニティに入れてもらえないのかって。

──『イデオン』の影響もあったんですね。

紀里谷 うん。あと『デューン』とかもそうなんだけど。

──『砂の惑星』ですね。

紀里谷 そう。ああいうわけのわからない断片的な、辻褄を超越する辻褄みたいなところにすっごい惹かれちゃうわけですよ。『CASSHERN』が稲妻を割って出てくるみたいな表現とか、俺は至極ふつうに表現してコンテも描いたんだけど、周りの人間は「これはどういうことなんですか?」って言うんだけど、やっぱり劇メーションとかでつながってる間柄だから、よしとしてくれるわけですよ。だからデヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』で主役がいきなり変わっちゃうとか、その領域から常に僕は抜け出せないんですよ。そこでやってたんですよ、あの時代は。

──じゃあ今回の映画はその領域の人が相当頑張ったんですね。

紀里谷 そうそうそう(笑)。ひとつひとつ丁寧に、すっ飛ばさないようにってね。でもね、『CASSHERN』は再編集したい、あれ。本来なら街が全部消え去るっていうシーンがあったんですよ。つまり、あれ全部想像の街なんですよね。いわゆる『耳なし芳一』的な、そんなところは存在しなかったっていう現象のなかでの出来事、あれって死後の世界なんですよ。そこがわかるともっとわかりやすくなるんだけど、そこを俺が「いや、そこまではわかりやすすぎじゃん」って言ってカットしちゃったんだよね。

──ホントにこの10年ぐらいでいろんなことを学んだんですね。わかりやすくしないと伝わらないとか。

紀里谷 そう! その前のMVの領域で言うと、意味不明きわまりないことやってるわけじゃないですか。それでこれだけ伝わるんだから、大丈夫でしょっていうのがあったんですね。しかし、そうじゃないっていうことを『CASSHERN』で思い知らされた。

──どうやらPVと映画は違うらしいっていう。

紀里谷 そう、違う。でもそんなこと言ったら、宮崎駿さんの『ハウルの動く城』だって何やってんのって感じだよね、ロジック的には。俺はそれでいいと思うんだけど、なかなか許してもらえないんですよね。

──それを踏まえると、今回の『ラスト・ナイツ』はものすごいちゃんとしてましたよ!

紀里谷 ハハハハハ! でしょ? 頑張りましたよ、何百冊も脚本を読んで。脚本の力学とかいま講義できちゃうぐらいですもん、俺。

──映画のルールとか関係ないって言ってた人じゃないですか。それが、ちゃんとルールに則ってましたからね。

紀里谷 うん。だからたぶん、そのルールに則らない領域にもう一回行くとしたら、まったく別な媒体じゃないとできないと思います。そのスケールのお金が集まらないと思う。ただ『CASSHERN』の編集をしてる最中に俺はそれを薄々感じてたんですよ。たぶんこういうことできるの最後だなって。明快に覚えてるのが、そのときにもうちょっとわかりやすくする選択は俺のなかであったんですよ。しかしそこに持っていかなかった。なぜならこれは10年後の俺に対する挑戦状なんだと思ってて、まさにそうなってるんですよ。

──あえてルールも無視して、わかりやすくしなかった。

紀里谷 デヴィッド・リンチでさえも。もう撮れない状態じゃないですか。その当時、たとえば『地獄の黙示録』だって後半まあ意味不明ですよね。『2001年宇宙の旅』もそうだし。そういう作品がバンバンあって、それで育ってきていて。俺の大好きなピーター・グリーナウェイの『プロスペローの本』っていうのがあるんだけど、ああいうのとか、まあ無理でしょうね、いまは。あとラース・フォン・トリアーの『エレメント・オブ・クライム』とか。ハリウッドでも、『レイジング・ブル』とかすら作らせてもらえないと思う。『ゴッドファーザー』だって危ういと思うよ。だから『CASSHERN』って奇跡的な作品だと思うけどね、いま振り返ると。

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