榎木孝明もハマった「不食」に医学界も警鐘「科学的根拠ない」

デイリーニュースオンライン

『30日間、食べることやめてみました』より
『30日間、食べることやめてみました』より

 俳優・榎木孝明(59)が10月に出版した著書『30日間、食べることやめてみました』(マキノ出版)が話題になっている。榎木は2014年5~6月にかけて水分以外は一切食料をとらない「不食」を実践し、その生活を自身のFacebookで発表。大きな反響を呼んで書籍化に至った。

 11月下旬に開いた刊行記念イベントには多数のマスコミが集まり、各ニュースで取り上げられるなど注目度は高い。しかし、不食そのものがオカルトじみていることや思想の怪しさ、さらにはイベントで発した問題発言などを疑問視する声も。その一方、最近は断食ブームが起きるなど榎木に限らず飽食の時代に「食べない」ことを扱った書籍が増加。果たして「不食」に何かしら特別な効果はあるのだろうか。

「不食」の実践結果は…低血圧と低血糖?

 榎木は不食で体重が81キロから70キロに減少したというが、刊行記念イベントで「そんなに食べなくても健康は維持できる」と力説。「相関性は分からないが」と前置きしながらも「痔は治ったし、尿漏れもなくなった。抜け毛が止まって髪の毛が太くなった」と健康効果をアピールした。

 別のイベントでは「集中力が増し、本を読むスピードが格段に速くなった。睡眠も深くなり、4時間眠ればすっきり。腰痛も消えた」と話し、さらに「おそらく空気中から人間はエネルギーをとれますよ」と笑いながらサラッと語っている。

 怪しげな健康食品の宣伝文句のようであり、どう考えても「空気中からエネルギー摂取」はオカルトじみている。不食体験後はバラエティー番組で「UFOと交信できる」「自宅の上空にUFOを呼んだ」と語るなど、ぶっ飛んだ発言も増えてきた。健康体をアピールしているが、不食による激ヤセや急激な老け込みも指摘されている。

 危ない思想に取りつかれているのではないかと心配になるが、もし本当に何も食べずに健康が維持できるなら驚きだ。しかし、実際に同書をひも解いてみると、榎木は不食9日目にして「目が覚めても、体がだるくて動き出せない」という状態に。不食によって低血圧と低血糖に陥ったようだ。榎木は対策としてコーヒーに砂糖を入れて飲んだり塩飴をなめたり、少量のブドウ糖を摂取してしのいだという。

 この時点で「食べない」の定義が何なのかよく分からなくなってくるが、それでも「一日の内に体が調子いいときとだるいときが波のように繰り返す」と記しており、決して健康的な生活ではなかったようだ。

「榎木さんが訴えている健康効果はすべて彼の主観。医学的事実かどうかの証明には全くならず、糖類や塩分で最低限の栄養を摂取して強引に不食生活を続けただけのようにも感じられます。短期間の断食は健康効果を認める研究結果がありますが、一カ月となると抵抗力が弱まったり寿命が縮むという報告しかありません」(医療関係者)

「72時間の壁」否定で猛批判を浴びる

 あくまで榎木は「他人に推奨するわけではない」とし、好奇心が不食のきっかけだったと明かしている。であれば個人の勝手で大きな問題ではないように思えるが、彼のある発言が一部で猛批判されている。それは災害時の「72時間の壁」という定説に懐疑的だと一部スポーツ紙に報じられた件だ。

 榎木は「災害時の瓦礫に閉じ込められた人の生存リミットは72時間とも言われてますが、私は全然そうは思いません。『不食』の本質を知れば人間の本当の力を発揮出来ると思うからです」と記しており、イベントでも「僕は(不明者になっても)サバイバルできる自信ありますよ」と笑顔で語っている。つまりは災害時に飲まず食わずでも不食の精神があれば大丈夫というのだ。

 だが、この一連の発言に以下のような批判が殺到している。

「自分で勝手にやってる不食と災害を一緒にするな」
「不謹慎すぎる。瓦礫に閉じ込められたわけでもないのに何を言ってるの」
「こういう人間がいると危機感が薄れる」
「震災で恐怖をあおってトンデモ論をぶつのは怪しいオカルトの常套手段」

 どうやら、実際の災害現場で培われた知恵を否定するだけの説得力を榎木に感じた人はあまりいないようだ。

怪しいセミナーの影も…不食ブームの危険性

 懐疑的な声が上がっても、榎木をはじめとした「不食本」は増加。不食ブームといってもよく、食べ物どころか水すらも摂取せずに大気中の「気(プラーナ)」を食べて生きているという弁護士で医学博士の秋山佳胤氏らが一部で人気となっている。だが、秋山氏が日本学術会議で「荒唐無稽」と公式に否定された代替医療・ホメオパシーの療法家であるなど、どこか危うげなイメージがぬぐえない。

 彼らに大きな影響を与えたのがオーストラリアの美人不食者・ジャスムヒーン氏。世界的に支持者の多い彼女はプラーナを食べて生きているというが、普段からコーヒーやスイーツなども摂取していることを明かしている。あくまで「社交の手段」として1日に300キロカロリー程度だというが、本当にどのくらい食事をしているのかは確かめようがない。

 また、彼女は不食のためのセミナーやワークショップを長年にわたって開いているが、公的に功績が認められたことはなく、唯一の成果はトンデモ研究に与えられる「イグノーベル賞」を獲得したくらいだ。

 それ以上に気になるのは彼らが「幸せレベルを上げる方法」「飢えの本質は愛の欠乏感」などといった、いかにもスピリチュアルで耳障りのいい言葉を多用する点。怪しげな宗教やセミナーに結びつきかねない印象があり、実際に榎木は数年前に「人生の悩みが消えて自分や周りの人の病気も快復する」というスピリチュアルセミナーに出席している。

 もちろん世のすべてを科学で解明することはできず、不食者を完全に否定することはできない。カスミを食べて生きていたという不食者の元祖「仙人」が過去に実在した可能性もある。

 だが、どこかキナ臭さが漂ってしまう不食ブーム。健康や命にかかわることだけに、少なくとも安易に手を出さないほうがいいのは間違いないだろう。

佐藤勇馬(さとうゆうま)
個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、ネットや携帯電話の問題を中心に芸能、事件、サブカル、マンガ、プロレス、カルト宗教など幅広い分野で記事を執筆中。歌舞伎町や新大久保をホームグラウンドに飲み歩くのが唯一の楽しみ
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