吉田豪インタビュー企画:安齋肇「ショックだけど、みうらじゅんから見ると俺は営業友達」(3) (3/3ページ)
■投稿コーナーVOWのカードが社員証に!?
──全然関係ない安齋さんの思い出話をしてもいいですか?
安齋 いいですよ。
──ボクが『宝島』で『VOW』の投稿選考主任という名の使い走りをしていた時期に、ちょうど『宝島30』のトラブルで宝島社が右翼に銃撃されたことあったじゃないですか。
安齋 ああ、あったあった!
──あれ、ボクがちょうど『VOW』で『宝島』編集部に出入りしてた時期なんですよ。それで、銃撃の翌日にお使いで『宝島』に行ったら、いきなり「伏せて!」って言われて。「窓から顔を出すと撃たれるから」って、社員がみんな伏せて移動してた日があったんですよ。その直後に宝島社が看板を外したんですよね。看板を外せばバレないと思ってる時点で頭おかしいんですけど。
安齋 そんな事態じゃないよね(笑)。
──で、入口に警備員を立たせるようになって。
安齋 あったあった!
──あのとき、宝島社って社員証がなかったんですよね。だからその代わりに何かないかってことで、社員に『VOW』に掲載された人に送るテレカを配って、みんな入口で警備員にVOWBOYを見せて入ってたっていう(笑)。
安齋 ハハハハハ! あのチ◯チンが3本になってるヤツだよね。
──そんなふざけた事態になってるなんて右翼が浮かばれないよなって。
安齋 ダメだなあ、それは。さすがだね。役に立ってるね。そのカードを六本木のキャバクラで使った話したっけ?
■『タモリ倶楽部』の収録をすっとばした原因は!?
──知らないです。みうらさんがよくみんなでキャバクラに行ってた時期ですか?
安齋 そうそう。ユニコーンのツアーパンフレットの入稿が全部済んで、それが夜中で、1杯飲んで寝ようと持ったんだけどビールも何もないし、ひとりで外で飲むなんてしたことないから嫌だなと思って、その頃よく遊んでたげんしじんって芸人さんに電話したの。「ちょっと一杯飲みに行きたいんだけど付き合ってくんない?」って言ったら自転車で来てくれて、幡ヶ谷の近所で飲んでたら盛り上がってきちゃって、「こないだみうら君たちと行ったキャバクラがあるから、そこ行こうよ」って言って。でも俺、次の日は『タモリ倶楽部』があるから1時間ぐらいでサッと帰ろうとしたら、ふたりで1万円ぐらいなのにポケット見たら8000円しかなかったの。
──え!
安齋 「ごめん! げんしじんいくらか持ってない?」って言ったら、「僕は500円しかなくて……」って言うんで、8500円出して、なんかないかなって探して、俺カードも何も持ってなかったから、「ハッ、『VOW』のテレカ、あれ1枚500円だから、それ2000円で売ろう」って、キャバクラの女の子に「ごめん、これ500円で買ってくんない? 400円でもいいから」って売って、なんとかお店は出たのよ。ところが六本木から帰れなくなってさ、しょうがないからレッドシューズっていう西麻布の知り合いの店まで行ってタクシー代を借りたんだけど、「悪いから1杯飲んでくわ」って言って、飲んでタクシーで帰って、なんかすげえ日だなと思って、『タモリ倶楽部』は朝9時集合だしシャワーだけでも浴びようと思って。で、床暖房がすごい気持ちよくてさ、そこで寝て、起きたら朝11時。
──うわーっ!
安齋 で、収録をすっ飛ばしちゃったっていう話。
──一回、収録に行かなかったことがあるっていうのがそれですか!
安齋 それがそのテレカ売ったときなんですよ。
──キャバクラに行ったせい(笑)。
安齋 あれはビックリした。ほかに知ってる店がなかったっていうこともあるけどね。
■みうらじゅんのすさまじすぎる“修行”
──みうらさんが一時期、キャバクラでフルーツとか頼むのにハマッてた時期ありましたよね。
安齋 あれはひどいよね。どんだけ高くなるかっていうのを競ってたでしょ、あれ。松久(淳)君(作家。『変態だ』の脚本をみうらと共に担当)を泣かせたこともあったでしょ。みうら君と(田口)トモロヲさんとふたりで、松久君に「おまえ、こうやってキャバクラに来てるけど1円も払ったことないよな、たまには払えよ」ってなって、「え、だって俺、サラリーマンじゃないですか」「そういう問題じゃないだろ。男だったら払えよ、それがブロンソンズだよな」みたいになって、「じゃあ払いますよ!」って言ったとたんにトモロヲさんが「すみません、フルーツと寿司5人前!」って。
──うわー!
安齋 それで、ひと月の給料ぶんぐらいになったって言ってたかな。キャバクラで泣いたらしいよ。聞いた話ですけどね。
──1回ボクがみうらさんとキャバクラに行ったときは、フルーツとか頼んで散財してるのに女の子とも話さないで男同士で盛り上がるだけだったから、どういうプレイなんだと思って。
安齋 そうそう、絶対に女と話すなってことあったね。
──すごい無駄遣いしてると思いましたよ。
安齋 それで、どんどん女の子が替わっていってね。あれもすごい修行だよなあ。あと、すごく女の子を盛り上げるっていうのもあった。ずっと笑わせて、「あのテーブルすっごいおもしろい、あそこに行きたい」ってほかの女の子たちに思わせるっていうのをやろうって言って、猫ひろしとかずっと芸やらされて(笑)。ひたすらずっと宴会みたいなことやって、ただ女の子は笑って見てるだけっていう。
──なんの得もないけど(笑)。
安齋 なんの得もないんだよね。好きだよね、ああいうことするの。無駄金を使うのが好きだったでしょ、あの頃。高い時計を買ったりとか。
──高い杖を買ったり。
安齋 そういう企画がどんどん出てくることがすごいよね。
■偶然の産物=映画『変態だ』をぜひ見てほしい!
──ボクも「一緒に出家しよう」って頼まれたことありましたよ。
安齋 ハハハハハ!
──リリーさんとふたりで出家計画を練ってたところで呼び出されて、「おまえも入れ」って言われて。「この3人の近況が同時に出家になったらおもしろいじゃん」って。
安齋 それすごいよね。……このインタビュー連載のテーマは特になくやってるの?
──そうですね。毎回会いたい人に会いに行ってるだけなんですけど、今回はみうらさんに命令されたという初めてのパターンで。
安齋 すみません、ありがとうございます。動員とかも考えたらたいへんなのかもしれないけど、すげえよくできたんですよ、偶然。ホントにいろんなことが、天気から何から全部偶然うまくいって。この偶然の産物を見てもらったらきっといい感じだと思いますよ。
──たぶんみうらさんが動いて、いろんな人にこうやって取材を頼んでるんだろうなっていう。
安齋 頼んでるよ。
──ひとり電通が。
安齋 ホント悪いヤツだから(笑)。ああいうふうに考えていろいろやってるように見えないのがいいよね。
──その種明かしをしたんで驚いたんですよ。
安齋 そのことをビジネス書的な感じのテイストで書けば、それがひとつのギャグになってるってことなんでしょ、きっと。でも、そうは思えないもんね。ここまで言う? っていうおもしろさだよね。
──唯一ちゃんとしたビジネス的視点があるサブカルの人ですよね。
安齋 あの人だけは損してないからね。いい時計してるもんね(笑)。やっぱり人間、慰謝料を払えるぐらいにならなきゃダメだよな。ドーンと一発二発払えるようにならなきゃダメだな。
(取材・文/吉田豪)
作品紹介:映画『変態だ』
みうらじゅんの小説を安齋肇が映画化。大学でロック研究会に入ったことをきっかけに売れないミュージシャンとなった主人公の男。妻と子の平穏な家庭を手に入れるが、愛人とのSM的な肉体関係も続けていた。地方での泊まりがけのライブの仕事が入った男は妻を家に残し愛人と出かけるが、ステージ上から客席にいる妻の姿を目にし……。
監督:安齋肇 企画・原作:みうらじゅん 脚本:みうらじゅん、松久淳 出演:前野健太、月船さらら、白石茉莉奈
12月10日より新宿ピカデリーほか全国順次公開。R18指定 (C)松竹ブロードキャスティング
プロフィール
イラストレーター、アートディレクター
安齋肇
安齋肇(あんざいはじめ):イラストレーター、アートディレクター。1953年、東京都出身。桑沢デザイン研究所デザイン科を修了してデザイナーに。JALのキャンペーン「リゾッチャ」のキャラクターデザインなどを手がける。また、テレビ朝日系『タモリ倶楽部』の人気コーナー「空耳アワー」にレギュラー出演し“ソラミミスト”の肩書きも持つ。漫画家・イラストレーターのみうらじゅんとの“勝手に観光協会”などの活動や、“OBANDOS”、“フーレンズ”、“チョコベビーズ”、“LASTORDERZ”などのバンド活動でも知られる。
プロフィール
プロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。近著は空手関係者の壮絶なエピソードに迫ったインタビュー集『吉田豪の空手★バカ一代』。