WELQ問題の真相を読み解く(2)「買収の経緯に関して極めて不透明」~山本一郎×古田大輔×三上洋特別鼎談
山本)さて、これからさらに細かく、じゃあ何が第三者委員会の報告書で語られて、語られなかったのかというお話をしたいと思います。
■論点1)
キュレーションメディアは儲かるビジネスだったのか?(高すぎる目標、増えるメディア&協業先)
これは報告書では語りきれなかったところと思っています。おそらく、関係者へのヒヤリングだけでは解き明かせない部分でしょう。また私自身、今回の調査報告書を読むなかでいろんな方の意見を聞きました。僕ら投資家としての目線、ウェブメディアを見たり運用したり、実際に寄稿させてもらっている側面はあるんですけれども、やっぱり投資家として、もしくは事業を把握しようとする人間として、上場企業がどういう形でこれをやろうとしたのか。
その点については、今回の調査報告書では見事に欠落しています。ただ、とはいえ、状況に関してはかなりつまびらかにされている部分はあり、今回それを中心にお話をしていきたいと思います。
■「永久ベンチャー」の標榜と挫折
何度も書かれている、「永久ベンチャー」というDeNA側の強い思いです。これは、いろんな遠因があるんですけれども、遠因に関わるものに関しては、DeNAの事業の推移でしかこの調査報告書では語られていません。
なぜそこをあえて強調するかというと、創業者である南場智子さんが、いろんな個人の事情その他、さまざまないきさつがあって一回経営を退かれるんですよね。その間を受け持っていたのが守安社長だったんです。今回、ほとんどの事例において、「守安氏が」「守安氏が」「守安氏が」という形で繰り返し指摘されていて、こいつクズだよ、くらいの感じで書かれていたんです。
彼が何を言うかというと、我々は「永久ベンチャー」である、という標語です。では、この「永久ベンチャー」っていう標語は何なのかというと、組織が大きくなっていくDeNAにおいて、新しい事業をやっていくにあたって官僚的すぎるのではないかということに対する危機感である、というのが表向きの説明です。
裏向きが何なのかというのは、ここに出ています。過去最大の売上高、営業利益を計上したところにあるんですけれども、DeNAの経営陣の間ではモバイルゲーム事業に替わって、今後の収益の柱となる事業を見つけ出そう、という思いが強くなっていったというのがあります。これが何なのかというと、稼ぎ頭であったモバイルゲーム事業の失速です。
ゲームを展開していた時代にDeNAは急成長するんですけれども、ここの利益率をカバーできる新しい事業を構築しない限り、DeNAは成長を継続できないという、強い危機感があったということになります。さらに、ここで問題になるのが、DeNAのモバゲー事業は、実は南場さんや今の経営陣が考えだした事業じゃないんです。その当時、コンテンツ事業を展開していた人が、ガラケー向けに提供していた一サービスがヒットしたという形です。なので、彼女たちがいちばん最初にやった「ビッターズ」というモバイルオークションの事業とかは、事実上そこまで成功していないわけです。
実は、彼女たちが本当の創業の意思をもってやってきた本体の事業というのは、失敗に終わっているんだけども、新しい事業を採択することによってゲーム事業が成立したので、その爆発的な利益率によってDeNAは成長したということをもって、「永久ベンチャー」と言っている、ということが一つにあります。
じゃあそのゲーム事業にかわり、SEOでメディアを育てるという事業や、漫画配信、人工知能、自動運転システムといった、ゲームで稼いだお金を次の事業に投資するという戦略に転換します。とりわけメディア事業については、うまくいけば利益率が高いはずだ!という事で守安さんはのめり込んでいくさままでは報告書で解説されています。これは、記事を量産し、一定数トラフィックを確保した段階で、記事の質を徐々に上げていく戦略というのが一つ。もう一つが、画像を低コストで利用してファッションブランドの記事を作成するキュレーションによっても、ビジネスとして成立するための十分な投資を有する記事を作成するのは可能だと判断した、ということなんです。
要は他から持ってきても、いわゆる普通のファッション誌にひけをとらない記事を量産できるはずだという前提です。この判断があったので、事業が成長する、スケールすると判断したように報告書では読めます。MERYであり、その他DeNAパレット各媒体に対して、投資を促進させていくぞということで、方針としてプラットフォーム志向で低品質な記事でも需要を喚起できるようなPVをSEOで確保できれば、メディア事業は成長できるはずだと。つまりここで語られているのは、収益性を確保するためには、低品質な記事を量産するというだけではだめで、それに対してSEOを効かせるというもう一つの柱があってはじめて、高収益化が実現できるはずだと彼らは考えていたということが、読み解けます。単にクソ記事を量産するのではなく、メディアを育てるためにSEOに有利な運営をする、そのためにはクソ記事が量産される必要があった、というロジックです。
ただ、途中からクラウドソーシング会社への依存度がものすごく高くなっていくんです。これにおいては、WELQは医療情報、ヘルスケアを扱うサイトだったため、法的問題がないか慎重な確認を当初やっていたんですけれども、これがだんだん出来なくなっていきます。なぜなら、記事の量が多いから。で、要は「このままでは儲からないビジネスだったんじゃないか」という話が途中から出てくるんです。
MERYの月次のPVの伸びなんですけれども、確かに伸びてはいるんですけれども、2016年第3四半期にようやく黒転したという内容になっています。ところが、2015年10月6日の経営会議において、会社の時価総額を1兆円とし、そのうち2000億円相当をキュレーション事業のみで売上を上げるぞと宣言しているんですよね。このペースを達成するためには、具体的にどのくらいのスピードで伸びていかなくてはいけないかというと、大体MERYが23~24倍という計算です。常識的に考えて、まともな投資をやって堅調に伸ばそうというよりは、クソ記事量産によるSEOドリブンでイノベーションだ、というラリった感じになったのかもしれません。
ただ調査報告書では、各メディアについての収支はごそっと抜いてあります。収支に関する情報ってとても大事だと思うんですけれども、報告書では載ってません。逆に読み解くならば、正直、MERY以外は赤字なんです。MERYに関しても2016年の3月に黒字化したとはありますが、収益化の規模については一切書かれていないんです。その上で、何でそういう利益構造でDeNAは前のめりになったのかということなんですけれども、事業計画を策定するにあたっては、MERYは他のDeNAパレットサイトとは別に、独自の編集方針を貫いていたと書いてあるんです。
これがなんなのかというと、報告書ではA氏、B氏と分けて書かれてありますけれども、A氏とされている中川さんとB氏とされている村田さんでは、ファンクションが違うんです。
中川さんっていうのは、MERYをひっさげて、ペロリという会社をDeNAを売却するにあたって、自分が強いのはSEOであると言い切っています。それに対して、村田さんというのは、事業拡大をしていくために、このメソッドを使って、組織化をしていきます、複数のメディアを運営していきますというところのファンクションなんですね。で、DeNAは、キュレーション事業は広告収入が伸びてきたことから、2016年の第三四半期、3月には黒字に転じると書いてあるんです。
2、3年後の成長軸として収益をあげることを期待されていました。村田さんは、守安氏が決定した中長期目標に対して、すべての事業計画を回して責任を負ってきました。さらに守安氏が、時価総額をベースに、中期経営交渉を打ち出してきたのは、時価総額は長期的な成長が期待できる指標であるからと。これは何なのかというと、事業計画を立てるうえで成長ラインを引きやすいんでしょう。
デイリーアクティブユーザーとかPVとか広告単価っていうのがあるんですけれども、この規模でサイトが伸びていって、複数メディアがあれば、これくらいのネイティブアドは取れるはずだという皮算用があったと思います。そういう成長への期待感を強く、彼ら自身が、組織を成長へ追い込んでいたということなのかと思うんですよね。でも実際、広告の売り上げの伸びとメディアの成長って、ちょっとベクトルが違うじゃないですか。
古田))いやもう、全然違いますね。PVがあったからネイティブアドが入るわけじゃないですし。PVってあの、バナー広告を貼り付けたものであれば掛け算ですが、ネイティブアドってそういうものではないので、そこが違うし。
まさにこれは(会見の)会場で僕が質問したポイントです。調査報告書によると時価総額に基づいて線をひいて、計算をして、守安さんがこの数字でやれと命令するわけですよね。それに対して、現場の村田マリさんが、ちょっとそれは挑戦というか高い目標ですねというように、やんわりと反対しようとしたけれど、守安さんが最終的に決定したということは会場でも語られたんです。
僕はこの高い目標を、コンプライアンスを守りながら本当に出来ると思っていたんですかっていう質問をしたんです。そうしたら守安さんは、当時は可能だと思っていた、と言ったんですけれども、先ほど山本さんが指摘されたように、他のところから画像を持ってくる手法であるとか、どう考えてもこのコンテンツ量を生み出そうと思ったら、クラウドソーシングに頼まないといけない。そうすると、プロ責法を言い訳にできない。となると、本当に、そのときに、法律をきちんと守りながら出来るという確信を持っていたとは思えないんですね。
山本)ちょっと先ほどの話に戻るんですけれども、プロ責法で守られないのではないかということは、DeNA社内の法務から指摘されていましたと。指摘されている内容としては、クラウドワークス会社に記事のディレクションも含めて発注をかけていますと。その発注している内容に関して、クラウドワークスさんを中心に、彼ら自身が外部ディレクターという形で人を立てているんですけれども、入稿に関しては当初DeNAは必ず検証しているんですよね。DeNAも、当初は真面目にやろうとしていたのでしょう。
ただし、外部業者に発注し、納品物を検収して自社サイトに掲載しているということは、記事自体を普通に外部委託で発注していたとしても、プロ責法(の範囲)ではないことになります。そして、DeNAは法務もそれは分かっていた。指摘もした。DeNA法務は仕事をしていたことになります。プロ責法で守られない記事を自分たちで書いているにも関わらず、内容について吟味しない記事というのは当然問題になります。著作権法についても外部からの指摘があるなかで、何故彼らが事業を止められなかったのかっていうのは、これは本当に事業判断上のミスですね、とDeNA自体が会見で認めておられます。
じゃあ法務のジャッジや組織としての歯止めを誰が押し切ったのかということについては、報告書にはあまりきちんと書いていないんです。合議のようだ、というところまでは書いてあるんですよね。報告書が、いったい誰を守ろうとしたのかわからないんですけれど。僕も、関わり合いのある事業者から画像が借りパク状態になっている問題については、当時直接村田さんに言いました。でも、村田さんに言っても止まらなかった。じゃあその上については報告書に書いていないので、ここはブラックボックスだと。上がどこまで問題を認識していたのか、という話なんですよね。
で、売り上げ予測の線表をひいて、記事をこのくらい書いたらこのくらい売上が上がるはずだ、だから時価総額1兆円だっていうことにのめり込むにしては、あまりにも雑なんですよね。メディアをちょっとやっていれば、じゃあ編集部員を2倍にすれば、2倍売上があがるかっていうと、それはなかなか無理でしょう。むしろ少ない人数でもバズれば人はこれだけ来るっていうことを期待したとしても、バズり続けるための体制って大変だということをわかっていれば、こういう線表の引き方はしないんですよね。
■事業部間のコミュニケーション不足?
山本)また、なぜ立ち上げた媒体の数が10個なのかということも、なぜ分野を分けたのかっていうところも、“なんとなく直感で”みたいな感じなんですよね。要は事業部間のコミュニケーション不足が問題点として浮かび上がってくる中で、違法かって言われると、お前らのガバナンスの問題じゃないかっていう話になって、あんまり関係ないといえば関係ないんですけれども。
報告書を読むと悩ましいことが書いてあって。ペロリを買収決断した守安氏は中川さんに対し、MERYについてはDeNAが運営する他のサイトと同様に、SEO、DAU、売上高などの目標を指示し、それらの目標達成手段として記事にSEO施策を行うことや、アフィリエイト広告、ネットワーク広告、動画広告を入れることを繰り返し求めてきたんです。つまり、お前もっとPV増やして売上上げろや、と守安さんは中川さんに言い続けてきたんですね。
ところが中川さんはMERYのブランド力を高めるためには、MERYの持つコンセプトである「ブランド力」のある企業のタイアップ広告を重視すべきだとして、守安氏のいう施策はMERYのブランド力を損ね、結果的にユーザー離れ、広告離れを招くと考えていたことから、安守氏から「B氏」(編注:村田氏のこと)の考え方を伝え、村田さんの考え方を採用していたと。ここだけ読むと、“中川まともじゃん!”となり、守安さんがほんとクズだなっていう話になるんです。まあ、報告書全編にわたって守安さんはクズだっていうことがいっぱい書いてあるんですけれども、おそらくは守安さんはメディアのビジネスについてまったく詳しくなかったのだろうということは想像がつきます。
報告書ではキュレーション事業において、コミュニケーション不全という問題も指摘された上で、上司には部下からの意見に耳を貸す寛容さが求められると。つまり守安さんには寛容さがなかったということですね。それがなければ、誰も上司にものを言わなくなる。つまり、誰も守安さんには何も言えなくなっていたということですね。
イエスマンだけで周囲を固めるのは心地よいかもしれないが、何も見えなくなるだけであると。上司の一言が部下に与えるインパクトは想像を超えるものがあり、“そのつもりはなかった”では取り返しがつかないと。このように、報告書で守安さんはさんざんディスられる。
三上))なんかあの、社長の講話で語られる怪しい話みたいな…。なんでそれが第三者報告書で語られるんだと。
山本)まあそうなんですよね。でも具体的な事業の状況が守安さんのところにいっていなくて、報告もあがっていなかったのでは、という推論にはなります。
守安さんのほうが、とにかく経営者として事業数値を達成するように各メディアに対して売上を求めてきたのははっきりしています。それに対して、中川さんやメディアを扱う組織の側は、メディアのブランド力を維持するために、SEO対策として記事を量産するよりは、メディアのブランド力を高められるような事業をしようとしていました。その中で記事の量産に踏み切らなかったMERYは黒字化する、そのほかの村田さん率いる9媒体はカネかけてクソ記事を量産しても売上は増えていかない。そうなると、何が正しかったのかと言う話になるじゃないですか。
三上))明らかに、クオリティを上げましょうというほうが、結果として収益を出している。でも守安さんは、KPIについてはユーザー数、SEOの表示位置。この2つの数字だけ見ていた。でもそれが結果、収益の数字になっていないという事ですよね。
山本)舵を切った方向が、おそらく守安さんからすると、数値管理的にわかりやすいほうに流れたんですよね。メディアって、わかりにくいじゃないですか。そういった点でいうと。
古田))メディアの信頼性とか、どのメディアのファンになるみたいな視点というものが、中川さんはそれを持っていたけれども、報告書を見た限りでは、DeNA全体の経営陣、守安さんにあったとは思えないんですよね。これだけのPV、DAUがある媒体なら、これだけの広告がついて当然だという、そこのところに認識のギャップがあったのではないかなという気はします。
山本)ですよね。実際、村田さんのiemoよりも中川さんのペロリのほうがブランドに関する記載は厚かったんですね。そういった点でいうと、MERYが黒転してから、むしろ村田さんのほうに足を引っ張られたという可能性はあるんですよね。MERYに関して、事業再開を検討しているという噂が絶えないのは、多分そこらへんがあるんじゃないかなと思います。
古田))実際、ペロリさん、MERYさんでいうと雑誌系、出版社系の編集者の方も次々に採用していたし、クオリティコントロールのところでまさに今飛び出そうとしていた段階に来ていましたね。
山本)PMIあるあるですね。これは「市況かぶ全力2階建」で書かれてしまったのであまり多くは語りませんが、PMIとは「ポストマージャ―インテグレーション」、つまり買収した会社が自分たちの部局とちゃんと組み合わさって、利益を出したり、お客様の利便性に役立ってくれるように統合していきましょうという話です。
そういう元気な会社を買った官僚的な会社が、その元気なところを生かしきれずに、元気な人だけ辞めていく、みたいなあるある話です。そういうのってちょっとあるじゃないですか。もちろん官僚的な組織母体のヴァリューもあるんです。これは普通の大企業だって、十分お客さんのニーズに応える力はあるんだれども、でも新しいことは出来ないので、買ってくるわけじゃないですか。いわゆるロマン枠ってやつです。
買ってきたなかで、新しいことをやる人たちをどうにか大きい組織とうまく組み合わせて、インテグレートしていかなかったら、買った意味がないじゃないですか。それをうまく整合性がある形で融和させていくのが経営陣でしょ、っていうところはあると思うんです。
古田))まさにそれが気になった部分なんですけれども。スタートアップって、法務部がないところが多いので、それはしょうがないですよね。最初にリーガルの人を社内に雇う事は出来ない、だからこそ本来であれば大きな企業が買収したときにはそこで法務を強化する。ただここで指摘されているのは、法務部門から指摘されているのにきちんと実行出来なかったと。でも、もう何年も経っているわけですよね。しかもその間、どういう指示を出していたかっていうと、むちゃくちゃに高い目標を与えて、これを達成しろー!と言っていたわけですよね。
そうすると、新しく加わった方が、めちゃくちゃ高い目標と、法務的な部分をがっちりしていくのと、どっちを優先させるのってなったら、そりゃあ社長に言われたら、そちらを優先させてしまう。それでいて、「DeNAのDNAを持っていない新しい人がちゃんと出来ていなかった」とまとめるのは、それは乱暴じゃないかと。
山本)まさにど真ん中、それですよね。守安さんから10個サイトをつくれと言われたと。DeNAパレットだっていう話なんですけれども。守安さんから10という数字を示されたあと、村田氏は、何のメディアを立ち上げるかという選定をしていたと。守安氏は対象領域を10という指示を出したものの、具体的にどのような領域を扱うかについては指示を出していなかった。とりあえず10個つくれ、以上!と。10個の領域を扱っていれば、キュレーション事業のトップを狙えるという守安氏の“感覚”から出た数字であると。感覚。まあ、勘ですね。根拠はない。
古田))これは本当に、現場の人は大変だっただろうなと思いますよね…。
山本)ですよね。ちょっとありえないくらいの話なんですけれども。キュレーション事業にあたり、DeNAの各部門から異動可能な人材が10名ほど集められ、あるいは新規にDeNAに採用されて入社した人たちによって進められることになりましたと。他の部門から、あいつ行っていいや、という人間が村田さんのもとに送り込まれたと。そこで採算を合わせろ、事業をうまく回せというのも難しかろうというところですよね。その点では、村田さんにとってもハードルが高かったと思います。おそらく高額買収したお陰で税金の都合もあって村田さんシンガポールから離れられないし。
その上で、ベンチャー企業の法務部門やコンプライアンス部門は上場企業に比べて脆弱であり、コンプライアンス意識も薄いことは決して珍しいことではなく、その結果として問題が起きたんじゃないかと第三者委員会の報告書ではなっています。あっ、そうと。
ただ、PMIっていうのは、それを見越したうえで統合するんです。要はこういう時価総額を目標とするから、利益目標はこれこれ、しかしこういうパーツが足りないので、この企業を買う、というのが本来の筋なんです。けれども今回のDeNAメディア事業の件は、この事業を買えばこのくらいの時価総額になるはずだから買う、と。そういった意味では、守安さんの側はあまりインテグレートするつもりがなかったんじゃないかと。メディア事業を買うぞ、理由はこれから伸びるから、以上!と。いくぞ、カネ突っ込め、ってなったのかもしれません。
■買収に至る経緯
山本)敢えて言いますけど、この調査報告書に書いてあることは、実際のDeNAで起きていたことの3分の1くらいしかフォロー出来ていないと思います。iemoの状況でいうと、あるベンチャーキャピタルから出資を受けていたが、2014年には新たな資金調達を必要とするようになっていた、と。それをDeNAは約15億円で買うというジャッジをするんです。この15億円というのがポイントなんです。
上からはKPIを押し付けられて、下からはコンプライアンスを守れっていわれて、難しい、でもやらなきゃいけないという話で、でもどうも厳しそうだという事になってくるんですけれども。
報告書では次のように書かれています。村田氏は、iemo 社のM&Aの売り込みなどをするために、福岡市で開催されたスタートアップイベントに参加しました。守安氏から近況を問われた村田氏は、iemoで資金調達を検討している最中であることを話し、守安氏はMERYでまとめサイトの業績をみて、キュレーション事業に大きな将来性を感じていましたと。そんな中、村田氏から事業説明を受けてiemoの将来に魅力を感じ、iemoのビジネスモデルを横展開することで、キュレーション事業が伸びるだろう、と前向きに考えるようになりましたと。量産すれば伸びるだろうと、この時点で守安さんは思ったんですね。
村田氏は、DeNAとの間だけでなく、iemoの買収に興味をもっていた競合他社と並行して協議をおこなっていたとあります。報告書には対象企業も金額も書かれていません。ヒヤリングできなかったのだとすると第三者委員会としてイケてないと私は思いますが、このとき福岡で複数の会社に村田さん売り込みをかけていて、その時の投資依頼書があります。これ、某キャピタルなんですけれども。この時iemoへの提示金額は8,000万円です。それが、守安さんのイケるぞ判断で15億に化けたことになります。
三上))えっ!全然違いますね。
山本)報告書では続きが書いてあります。守安氏は競合他社との価格競争に敗れた苦い経験を踏まえて独占交渉を要求し、村田氏は15億円という金額を提示。守安氏はこの時点でiemoを買収する決意を固めていたため、買収の是非について戦略投資推進室の見解を求める事はなかったと。
三上))村田マリ氏に丸め込まれた…、と?
山本)恐らく。このへんで大きなミッシングリンクがあるんですけれども。明らかに、会社が資金調達を必要としているフェーズであって。もちろん大きくしたいっていうのはあるんですよ。ただ原則として、でもあとiemoは何ヶ月で資金がショートするよね、っていうタイミングで、増資しなくちゃいけない話じゃないですか。だからこそ、村田さんはiemo存続のために喉から手が出るほどキャッシュが欲しかった。もしくはバイアウトして、より安全な出口戦略を考えていたことは、周辺の話からは理解ができるところです。その中で出てくる条件と、こういうベンチャー界隈ででてくるお金の条件って、違うんです。
要は、我々の残キャッシュがこれから燃え尽きそうだから増資してねっていうのと、お前らの事業戦略有利だから買わない? っていうのと、当然足元の見られ方が違うわけです。要するに、村田さん率いるiemoはカネがないから増資先を求めていたフェイズなのでしょう。そうなってくると、ここで出てくる「守安氏はiemoの買収する決意を固めていた」というのは何なんだという話なんです。そこを調べるのが第三者委員会の責任じゃないのかと。なんでこんな風に守安さんが独断で話を固めてんだよと聞かなきゃいけない。書いていないんです。我々にとって絶対知りたいところじゃないですか。
三上))経営幹部がムダなカネを使って失敗しているんだから、そこをやんなきゃいけない。
山本)そうです。この買収の経緯に関しては極めて不十分な報告書だと思うんです。書ける事は他にまだいっぱいある。あと、第三者的に、iemoは他にも当たっていたんです。ペロリはかなりまだ頑張っていて、キャッシュも残っていたという話ですが、iemoはあと8ヶ月くらいで存続をかけた勝負をするかもしれないね、っていうところで増資依頼をしている会社なので、15億円なんてつくわけがない。ただのインテリアサイトですよ。そんなカネあるなら大塚家具買えやっていう話になる。
買収の経緯について、このジャッジが何故、どのように行われたかに関しては、第三者委員会がちゃんと調べなきゃいけないし、彼女はどこに持って回っていたのか。それこそ具体的な社名を伏せてX1社、X2社でもいいから、そこで当たらなきゃいけないんです、調査委員会自体が。でも当たっていないんです。実際に村田さんが増資を持ちかけた某キャピタルのそこの担当を知っているんですが、いやDeNAの第三者委員会、来ていないと思いますよ、と。
三上))この第三者委員会は、村田マリ氏とどのくらいやりとりをして、村田マリ氏からどのくらいヒアリングしているんですかね?
山本)良い質問ですね。私もそこは疑問に思っているんです。彼女が取締役になるにあたって、iemo社の法務担当の指摘内容を受けて、法的リスクがあるということを明言しています。問題がある画像を挿入している記事を削除する、問題のある画像を許諾した画像に差し替える、引用元から直接リンクを貼る方式にする。
三上))自社のサーバーに保存しなくて、直リンにすりゃあいいじゃんっていう、とても頭にくる…。
山本)お前らがトラフィックの代金負担っていうやつですね。それを平気で調査報告書に書いてきたという点では、ウェブ業界のイロハも知らないで、お前らふざけんなと思ったんですけれども。
それはおいといて、報告書にはこうあります。弊社はDeNAという大企業の人的・金銭的支援を受けてiemoの事業を大きくしたいと考えた結果、DeNAの買収計画を受け入れた後も周り続けたと。普通に条件良かったカネじゃないかと思うんですが、売却したあともiemo社に関わり続けるつもりであったと。
その上で守安氏は電子メールで2014年7月31日、南場氏らに対して、村田氏をDeNAの執行役員にしたいとの意向を伝えたところ、買収直後に執行役員へと登用する事について社内の公平感・納得感を得られるのか、シンガポールにおいて勤務しながら執行役員としての職務を全うできるかという懸念などが示されたと。
しかし守安氏は、社内にスピード感、健全なコスト意識、挑戦マインドを吹き込む役割を村田氏に期待しており…。期待してしまいましたね。
DeNAが「永久ベンチャー」を標榜しながらも、大企業病に陥っていることに危機感を示していた南場氏らも、iemo社の持つスタートアップのマインドがDeNAに注入され、DeNA社内に、失われかけていた「永久ベンチャー」の雰囲気が呼び戻される事を期待し、2014年9月19日、同年10月1日付けで村田氏を執行役員とする旨が取締役会で承認されたんです。まあ何にも考えていなかったんじゃないかと。ここの経緯は村田さんも南場さんも同じ内容を言っているので、これは事実でしょうと。
で、さきほどiemo社とペロリ社の位置付けについては申し上げたとおり、SEOなどについては中川さんがやり、メディアの横展開やスケーラブルな運営に関しては村田さんがやる、という形での棲み分けになりますと。
それと、「iemo社およびペロリ社の買収後のキュレーション事業の構想」っていうのがあるんですけれども、守安氏は“iemoの買収を足がかりに、iemoのビジネスモデルを、iemoの「住」という領域以外にも横展開することで、キュレーション事業を、短期間で、大きな収益をもたらす事業に成長”させようと考えていましたと。そうした意味では、そもそもペロリを買収した時点で気づけよっていうところがあるんですけれども、村田氏は、横展開に相性が良さそうな領域や横展開に適していない領域を提案するなどしていましたと。
その後ペロリの買収が具体化し始めると、「キュレーションメディアを核とした新規事業展開について」と題する経営会議資料では、キュレーション事業の横展開に関する構想がより具体化したと。この時点でハマっちゃったんですね。報告書はここまでですが、守安さんのミスジャッジは最初で全て躓くようにできていたのかもしれません。
だからそういった意味でいうと、調査委員会の報告書に書かれている内容は、買収後の社内の事象に関してはおそらくその通りだろうと思います。ただまあ、買収の経緯は調べようはあったんじゃないのかなあと思うんですけれども。そのうえで、第三者委員会が本当はメディアについてあんまりよくわかっていないまま、背景分析したんじゃないかと思うわけです。ちょっと報告書の結論や経営状態に関する記載が少ないところをみると、ビジネスモデルも採算面でどこまで行けると思っていたのかはっきりしませんし、メディアにある程度関わった人間からすると、ピンとこないんですよね。
三上))メディアって、コストがかかるのって人ばっかりじゃないですか。歩いて探して時間かけて、っていう事でしか出来ないビジネスじゃないですか。たぶんそれを実感されていないから、こういうわけのわかんないKPIの考え方になっちゃうんじゃないのかな。
山本)KPIを、技術を投入して人間のやる作業をより楽にさせる、という考え方ならいいんですけれども、スケールを大きくするのとはまた違うじゃないですか。BuzzFeed Japanで人工知能を大量投入して、記事が3倍増えますから売上もPVが3倍になりますかっていったら、ならないわけじゃないですか。
古田))ならないですねえ。メディアの場合だと、我々が出しているコンテンツがどういうオーディエンスに届いているのか、どういうチャンネルを通じて届いているのか、それでオーディエンスの人たちはBuzzFeed Japanに対してどういう認識をもつのかまで分析する。そうやってメディアを成長させていくわけですけど、第三者委員会の側でいうと、先程から山本さんが説明されている部分が確かに物足りないというか。もっと知りたいという欲求が出てきますし。
山本)上層部、南場さんや守安さんはそういうメディア事業に関してさほど詳しくなかっただろうと。メディアに関しての知見がない第三者委員会の方が、メディアに関して知見のなかった南場さん、守安さんにヒアリングしているんだろうなっていうことを強く感じます。今回報告書の目次をみると、第10章に背景分析っていうのがあって、僕らからすると、まずいの一番に採算についての内容が来るはずだと思うんです。何故そうしたかったのか、どこにビジネスモデルの勝算をみたのかっていう、ものすごく大事なイシューなんですよね。
要は安い値段で、それこそクラウドワークスさんやランサーズさんに記事を作らせたのは何故か。何故ならば記事1本あたりこれだけの単価で、SEOやサーバー運用についてどういう利益構造になっているからそれは成立するのか。スケールさせるために、なぜ10個っていうものをやろうとしたのか。これ、全てコストじゃないですか。今回いわゆるコストに関わるものがほとんど入っていないんです。唯一好意的に解釈するなら、10個やってみて、こうも赤字だったから、利益出ていない前提で話を進めていいでしょ、っていうことがあったのかもしれないですけれど。
でも利益が見込めて、将来的に1兆円の時価総額にするんだ、っていう前提で事業計画を組んだ投資だった以上、そこは営業利益率を出していかないと、彼らのここに勝算があったと思っていましたというのがわからないわけです。さっきのiemo15億円っていうのも、買収の決意を固めたのは何故だっていうのも言わないわけですよ。じゃあ守安さんの責任はどこにあるんですか、経営判断間違えましたね、コスト判断してどうだったらあなたの判断が正しかったんですか、っていうところまで検証できない。そうでなかったら、背景分析にならないじゃないですか。
今回の調査報告書に関しては、悲しいくらいビジネスモデルに関する数字が詰められていません。じゃあSEOするのにどのくらいのお金がかかるんですか、サーバー運用するのにどのくらいのお金がかかるんですか、著作権を無視する事によってどのくらいのコストが削減できるんですか、記事1本あたりのコストはどのくらい下げられるんですか。実は何ひとつ書いていないんです。仕入れコストがはっきりしなければ、また利益率がどうなのかが分からなければ、彼らが何に勝算を見て投資判断し、事業運営したのかが理解できないことになります。
で、これはメディア側の人は特にそうだと思うんですけれども、1本あたりの単価って何となくわかるじゃないですか。このくらい広告が入って、1本あたりの収支がこうなって、それをウイークリーで回したらこうで、マンスリーで回したららこうで、って考える。そのあたりの目算が報告書には一切書いていないのです。もっと言うと、DeNAのメディア事業の経営計画に村田マリはそれほど関与しなかったようです、どうやら。ただ、その有無さえも書いていないんです。事業を管理する中で、このP/L(損益計算書)ですって普通持ってますよね。それが一切、ないんですよ。
三上))あの、言っていることが利益じゃなくて、ずっと時価総額じゃないですか。経営のことわからないけど、時価総額の前に利益を見なきゃいけないもんなんじゃないんですか?
山本)もしくは利益に転化する見込みを数字的に示しておかないと、事業計画にならないです。唯一、2016年3Qに黒転するだろうという見込みっていうところしか、調査報告書に書いていないんです。それはどのくらいの規模で、発行している記事数は何本で、取引先はいくつからいくつくらいで、どこの会社と提携して、そこの利益率がなんぼで、っていうのが出ていなかったら、わかんないのです。報告書には、見事に書いていない部分ですね。
誰を守ろうとしてるんだ、って思ったんです、最初。まあ誰も守ろうとしていなくて、単純に調査委員会の側がそういう経営的なマターに関して、あまり関心がなかっただけなのかもしれないですけれども。常識的に考えて、そこが一番知りたいわけですよ。
要はDAU(編注:デイリーアクティブユーザー)が時価総額換算いくらになっているんだというところさえも書いていないんです。だとしたら、他の様々なメディアがある中で、そこと比較したときにどういう数字になっていたから、こういう判断だったのか、という事がわからない。これって第三者委員会がやっている事からすると、それをどこまで信用していいかわからないという話になっちゃうんですよね。せっかくあれだけ関係者にヒヤリングしたのに、もったいないなと。
その上で、SEOだとかサーバー運用だとかライターの記事執筆にかけるコストっていうところの言及が皆無なので、守安さんがどういう情報をもってジャッジしたのかという点に関しては、守安さんの「感覚」であったとしか言いようがなかった。彼は何をベースにその10個っていうキュレーションサイトを立ち上げろって村田さんに言ったのか。正確には9個ですけれども。そういったところがわからないままなんですよね。だから多分、なんの解決にもならない報告書なんじゃないかって思っちゃうんです。
三上))裏付けとなる数字がなければ、そこでどういう判断になったのかが分かりませんよね。
【第二回了】
WELQ問題の真相を読み解く(1)「DeNAだけが謝って終わる問題だったのか?」~やまもといちろう×古田大輔×三上洋特別鼎談
WELQ問題の真相を読み解く(3)「ネットメディアは是正されるのか?」~山本一郎×古田大輔×三上洋特別鼎談
古田大輔
バズフィード・ジャパン創刊編集長。1977年福岡生まれ、福岡育ち。早稲田大政経学部卒業後、放浪生活を経て、2002年朝日新聞入社。京都総局を振り出しに、社会部記者、東南アジア特派員、デジタル版編集などを担当。2015年10月にBuzzFeed Japan創刊編集長に就任。趣味は仕事。
https://twitter.com/masurakusuo?lang=ja
山本一郎
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一報、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。介護を手掛けながら、夫婦で子供三人と猫二匹、金魚二匹を育てる。
http://lineblog.me/yamamotoichiro/
三上 洋
セキュリティ・ネット事件・スマートフォン料金を専門とするITジャーナリスト。テレビ・ラジオ・雑誌などでの一般向け解説多数。読売オンライン「サイバー護身術」、アスキー「5分でわかる時事セキュリティ」などを連載。Ustream、ニコニコ動画などネット動画のプロデュースも手がけている。
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