朝日新聞の誤報に限らず新聞メディアのやらかしについて思う|やまもといちろうコラム
山本一郎(やまもといちろう)です。情報を扱う者として、これは事実だと思って記述し公表してみても、時が経つにつれて実は違ったとか、情報が古くなって適切ではなくなったという経験は多々あります。悲しいことですけど、メディアの人間というのはそういう経験を繰り返して反省して前に進んでいく一方、ときとして「誤報もまた性」と割り切るなどして慣れてしまうこともあります。
だからこそ、特定の発信源からの情報を100%信用して鵜呑みにすることや、常識や経験に照らし合わせて物事の真贋を見抜くリテラシーを見抜きましょうといった、情報に対する態度の啓もうが大事だという建前が跋扈するわけなんですけれども、やはり報じる側の立場がいろんなものを曇らせてしまうということは起き得るわけです。
つい先日、『朝日新聞』が豊洲問題で衆議院の質問に立った足立康史衆院議員(51)の件で、安倍晋三首相(62)が政局の運営について「維新は利用できるからいい」と語ったとしたうえで、首相補佐官の長谷川栄一さん(65)から足立さんにメールで豊洲問題を質問するよう促したと報じました。
「都議選を3カ月後に控え、自民と対決色を強める小池百合子都知事を追い込む質問を求める内容」であってほしいという一件をもって、首相・官邸サイドが維新を動かしているとする内容です。
ところが、この報じられた内容については、当の足立さんからの要請を受けて元経済産業省の宇佐美典也さんが知己の生田與克さんを通じて足立さんに情報提供をしていただけであることが暴露されてしまいました。
もちろん、この一件をもって『朝日新聞』のいう「官邸が維新に委員会で豊洲問題の質問を依頼した」ことは全否定されるわけではないのですけれども、ことの推移の事実を並べてみると途端に『朝日新聞』のこの特ダネが霞んで見えてしまいます。
①まず生田さんと俺は暁星高校の先輩・後輩の関係で、そもそも音喜多先生の紹介で知り合った。
— 宇佐美典也 (@usaminoriya) 2017年4月20日
足立さんと生田さんは一緒に番組をやっていて、足立さんと宇佐美は経産省の先輩・後輩の関係。
で、足立さんが農水委員会に立つことが決まって、生田さんが「それなら豊洲について質問してほしい」→
→②ということになり生田さんから俺に「何かいい知恵はないか?」と相談が来て、俺なりに知恵をしぼって、質問を考えた。
— 宇佐美典也 (@usaminoriya) 2017年4月20日
それ以上でもそれ以下でもないいたってクリーンな話です。
なお足立さんと俺はもう8年くらい直接やりとりをしていない。
その意味では、今回の『朝日新聞』に限らず読売産経毎日日経も何らかの情報ソースの意図を持って動く、というバックグラウンドは常に想定しながら読者は情報を摂取しなければなりません。例えば、先日このような記事がありました。
今井尚哉首相秘書官が『朝日新聞』番記者をいじめ辞めさせた事件
■情報氾濫時代をどう生きにくか
つまりは、実質的な安倍政権・官邸の司令塔である今井尚哉さんが徹底的な『朝日新聞』嫌いであり、文字通り官邸と『朝日新聞』の対立の中で出ている記事であるとも言えます。他の新聞やテレビ局の報道記者もこのニュースポストセブンの記事について「重要な部分はそれなりに事実なのではないでしょうか、ディテールに気になる部分はありますけど」というぐらいですので、まあだいたいその通りなのではないかと思います。
でも、そういうコンテクストを知って冒頭の『朝日新聞』の記事を読む読者がどれだけいるのか、という話はあります。裏側もある程度理解したうえで新聞記事を読みましょうといっても、普段は真面目に働いたり、日常は育児や介護や趣味に時間を費やしている国民が、そういうことまで知ってからリテラシーを発揮して情報の審議を見極めろと言ってもどだい無理な話です。
先日の森友問題にせよ今回の北朝鮮問題にせよ、ある種のスピン、状況を動かそうとする情報が山のように報じられている中で、大きな流れとして政治や経済、社会の動きを見据えることのむつかしさを知ってほしいと思います。
一方、じゃあどうすればいいのかというのはあります。個人的な結論としては、予断を持たずにいろんなことを知っておくのが良いのではないか、すぐに判断せず、大きな流れの中で情報の向きをおおまかに感じ取るしかないんじゃないかと考えています。例えば、一個一個の報道の中でギョッとするような記事や怒りたくなるような情報に接することはあるでしょうが、こういうスピンの情報は時間とともに必ず反対側から反論も含めたカウンターの情報が出てくるようになります。慌てて刺激的な情報に飛びつかず、両側の意見が出るのを待ってから、時間をかけて判断することで、右に左に流されることが避けられるんじゃないかなと感じるわけですね。
私も産経新聞で連載を持たせていただいていますが、産経新聞にとって不利なことも記事で書くと、やはり産経読者の方に怒られたり嘆かれたりします。でも、産経にも朝日にもその他メディアにも必ずポジションがある以上、必ずどこかで間違うことはあると思うのです。そういう間違いも「産経が書いたから仕方がないのだ」「『朝日新聞』は間違っていないのだ」と自己補正してしまうのではよろしくないと思うんですよね。健全に考え、適切に疑いながら、一個一個の情報すべての正誤は分からずとも総じてどういう流れなのかを分かることが、現代の情報氾濫で波に飲み込まれない秘訣なんじゃないだろうかと思う次第です。
著者プロフィール
ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)
やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研