弘兼憲史の「老活」黄昏シネマ厳選10本(2)死に際はピンピンコロリを目指して (1/2ページ)

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弘兼憲史の「老活」黄昏シネマ厳選10本(2)死に際はピンピンコロリを目指して

 安楽死について印象に残っているのが、1973年のSF映画『ソイレント・グリーン』です。人口爆発から食糧難という近未来社会を舞台に、チャールトン・ヘストン演じる刑事の同居人の老人が、自ら安楽死の施設に行くというシーンがあります。大自然の美しい映像が映し出され、そこにベートーベンの交響曲第6番「田園」が流される。安楽椅子に座った男はその美しさに涙を流しながら死んでいきます。死ぬなら、この映画のようにキャビアのお茶漬けなんかをいただいて、好きな音楽と映像を見ながら眠るように死ねればいいなという気分があります。

ベニスに死す』、これは、初老の男の恋愛物語です。しかも恋の対象は若い美少年。イタリアのベニスを静養のために訪れた作曲家(ダーク・ボガード)は、ホテルで見かけた美少年に永遠の美を見いだし一目惚れします。ちょうどそのときに疫病がまん延していましたが、彼は少年がいる限りベニスに残ることを決め、結局疫病に罹って浜辺の椅子に座ったまま孤独な死を迎えます。自らの死をもいとわず最後の恋を全うしようとした崇高な愛の映画です。主人公は年を隠すために髪を黒く染めて白粉を顔に塗っているために、その白い顔の上を毛染めの黒い液体が汗になってしたたり落ちます。マーラーの交響曲第5番が流れる感動的なシーン。美は永遠ではなくやがて失われる、恋というものが、自分の死をも超越するすごいリビドーを持つという意味でも、影響を受けた好きな作品です。

続・男はつらいよ』は、寅さんシリーズの2本目で、東野英治郎さん演じる寅さんの恩師が登場します。あるとき、その散歩先生が、「鰻が食いたい」と言うので、寅さんは川へ行って天然のうなぎを釣って来ますが、先生はロッキングチェアに座ったまま、こときれている。気がついたらポックリと死んでるというこの散歩先生の死は、理想的な死に方だと思います。目指すはピンピンコロリです。

在宅死“死に際の医療”200日の記録』は、一人の老人がだんだん弱っていき、ついには息を引き取る瞬間までをカメラに収めていて、これは凄い映像でした。人間が死ぬということの崇高さを、映像を通じて感じることができると思います。

「弘兼憲史の「老活」黄昏シネマ厳選10本(2)死に際はピンピンコロリを目指して」のページです。デイリーニュースオンラインは、ソイレント・グリーン週刊アサヒ芸能 2018年 12/27号黄昏流星群男はつらいよ弘兼憲史エンタメなどの最新ニュースを毎日配信しています。
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