【東京五輪】新国立競技場、入札不調のキナ臭い話
2020年東京オリンピックの象徴となる建造物は、神宮外苑に建設される新国立競技場である。開閉式の屋根を持つ流線型のデザインを目にした人は多いだろう。
工事は、50年前に建設された現競技場の解体工事から始まるのだが、入札不調が相次いで遅れに遅れ、現在、3回目の入札公告中。開札は12月2日を予定、工期は来年の9月までとなった。
工区は北と南の2つに分かれ、最初の入札は、準大手ゼネコン2社で内定していたものの、予定価格を超えて不調となり、2回目の入札は、異議申し立てをする業者が表れ、それが認められて3回目となった。
麻生副総理と親しい経営者が介入
東京オリンピック工事の序盤戦にケチがついたようなもの。ゼネコン幹部によれば、「戦犯」がいるのだという。
「新国立競技場には、ゼネコンから設備までの業者の陳情を受け、政界や官界の意向も聞き取りながら捌くAという調整役がいます。その人が、特定の業者にこだわり過ぎて、うまく業界をまとめられなかった」
Aは、文部科学省に影響力を行使してきた企業経営者で、政界にも太い人脈を持ち、なかでも麻生太郎副総理・財務相と親しいことで知られる。
新国立競技場は、運営主体の独立行政法人・日本スポーツ振興センター(JSC)が発注。そのため文科省に強く、五輪招致に功績があった森喜朗元首相、五輪事業の推進役である麻生副総理・財務相と親しいAが、調整役を担うことになった。
競技場建設工事に関与したい業者は、いずれも「A詣で」が慣例化。これまでの実績から考えても、「うまく仕切るのではないか」(前出のゼネコン幹部)と、目されていた。
しかし、総工費1700億円を超す工事を一手に仕切るには無理があった。2004年末の「脱談合宣言」で、ゼネコンの談合組織がいったん潰れたという事情もあった。
予定価格を超えた最初の入札が不調になったのは仕方がないとして、2回目の入札で、北、南の両工区で一番札となった解体業者を外し、Aと摺り合わせを終えていた解体業者を、強引に受注させた仕切りに不満が出たのは無理もない。
ケチがついてしまった入札で、Aの調整に期待する業者はいない。3回目は、ガチンコ勝負の一般競争入札となるだろうが、JSCにも価格だけで決定、工事がいい加減なものになっては困る、という事情があり、揉めるのは必至だ。
工事スケジュールに影響を及ぼすほどではないというものの、調整に失敗した調整役の責任は重い。
- 伊藤博敏
- ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。『「欲望資本主義」に憑かれた男たち 「モラルなき利益至上主義」に蝕まれる日本』(講談社)、『許永中「追跡15年」全データ』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)など著書多数