Facebook乗っ取り…ネット犯罪で蠢く「福建マフィア」の正体

デイリーニュースオンライン

写真はイメージです
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 日本で猛威を振るったLINEの乗っ取り詐欺だが、現在は運営元の対策もあり一段落したかっこうだ。変わって今、Facebookでの乗っとり被害が増えている。Facebookアカウントを乗っ取った犯人は、通常ではありえない割引率の、偽のブランド通販会社のページを勝手に宣伝広告するのだ。その際、友だちもすべてタグ付けされるので、乗っ取られた本人の友だちに一斉に広告が行く。実際に購入しようとして入金しても、商品は送られてこないという詐欺だ。

 これらもIPアドレスは中国のもので、LINE乗っ取り同様、詐欺グループは中国大陸に拠点をおいているとみられる。では、なぜ中国には日本人をターゲットにした詐欺グループがいるのか。この問いに答えてくれたのはある大手紙の社会部記者だ。

「2012年頃、中国人によるネットバンキング詐欺が猛威を振るった。他人のパソコンにウイルスを送りつけ、銀行のIDとパスワードをハッキングし、不正アクセスをしていた。口座に入っているお金を勝手に他人名義の別口座に入金し、引き出していたのです。日本での引き出しグループは末端。“本部”は中国の福建省にあって、そこからネットバンクの操作をしていたようです。当時、本部は福建省の福清市にあるといわれ、日本の当局は、いわゆる福建マフィアの『福清幇(福清グループ)』の犯行だとみていました」

2011年の官公庁サーバー攻撃が契機に

 詳細は明らかになっていないが、犯行グループは銀行の成りすましメールや、キーロガー(キーボードに打ち込んだ内容を送信する)などのウイルスを送り込み、IDやパスワードを入手していた。セキュリティ事情に詳しいあるITジャーナリストは言う。

「2011年秋、日本の官公庁や防衛産業が相次いで中国からのサイバー攻撃に晒されたことがあった。官民含め、日本人のセキュリティ意識のなさに中国人犯罪者が一斉に目をつけたようです。中国はロシアに次いでネット犯罪が盛んで、ハッカーも多い。日々、ウイルスやサイバー攻撃用のプログラムが生み出されています。最近、猛威を振るっているスマホ用のウイルスのほとんども中国製です」

 2011年から2012年にかけて、福建マフィアと中国のサイバー犯罪グループが結託し、日本人に目をつけ始めたのだ。それが現在のLINEやFacebookの乗っ取りの源流になっていると前出のITジャーナリストは指摘する。

 90年代に新宿・歌舞伎町などで猛威を振るっていた福建マフィアだが、昨今ではすっかり耳にしなくなった。今、彼らは本土に拠点を移し、いわば遠隔操作をする形で日本で犯罪行為を犯していたのだ。長年、日本国内における中国マフィア事情を取材してきた在日華字紙の元記者は言う。

「90年代後半、主に密航で入ってきた福建マフィアは、『最凶』と呼ばれていた。他の中国人からも蔑まれ、独立愚連隊のような様相を呈していました。後先考えずに日本のヤクザに喧嘩を売ったり、ヒットマン役になるメンバーも大勢いた。しかし2003年の不良外国人一斉取締以降、多くは強制送還され、本国へ戻っていった。その後、日本に残った同胞や、日本のヤクザ・不良たちと組んで日中を股にかけた犯罪に手を出しはじめたのです」

 福建マフィアは日本以外にも欧米などに密航して不法入国し、世界中に散らばって犯罪行為を繰り返した。当初は強盗や窃盗など小グループごとの粗暴犯が多ったが、徐々に「躊躇せずに人殺しができる」という評判が伝わり、次第に恐れられるようになっていった。こうして、世界中で力を持ち始めたのだ。現在では、ニューヨークなどでは一大勢力となっている。

振り込め詐欺に福建マフィアが進出

福建省福清市の様子

「日本では、2005年頃から、オレオレ詐欺や架空請求などで福建マフィアの関与が発覚しはじめた。どうやら旧知の日本人のヤクザや不良たちが持ちかけ、福建に“コールセンター”、すなわち電話役メンバーのアジトを作ったようです。携帯電話の本人確認が厳しくなり、振り込め詐欺グループ御用達のトバシ携帯が犯罪市場から消えて、『中国から架電する』という方法を誰かが思いついた。こうして、日本人債務者を現地に送り込み、末端である電話役としてアジトに常駐させる方法が編み出されたのです」(前出の元記者)

 この元記者が実際に現地で接触した福建マフィアのメンバーは、現地公安や電話局を買収し、3階建てのマンションに末端の日本人を“監禁”し、仕事をさせていたという。そこには日本から“お目付け役”として、関東のヤクザもおり、福建マフィアのボスと組んで偽ブランド品や薬物の密輸も行なっていたという。

「オレオレ詐欺の架電はシステム化され、パソコンに入った名簿データを元に自動的にIP電話をかけていく。相手に表示される番号も、ネット上でランダムに設定するなど、高度にIT化されたシステムを使っていました」(同)

 当時から、こうしたシステムがすでに整備され、インフラがあったのだから、LINEのアカウント乗っ取りやネットバンキングのハッキングも朝飯前だろう。ネットを利用した犯罪では、日本人をわざわざ現地に置く必要もなく、福建側と在日中国人だけで犯罪が完結するのだ。

「人口の1割が密航で海外に渡った福建省の福清や長楽の街には、日本で荒稼ぎした人間が築いた豪邸が数多くあり、『帰国者村』の様相を呈している。そこで日々、新たな犯罪が生み出されているのです。食い詰めた日本人ヤクザや、怒羅権などの不良も頻繁に出入りしており、最新情報も入ってくる環境にある。そうした中、近年、ITを使った犯罪に力を入れており、今後、もっと巧妙なサイバー犯罪が行われる可能性が高い」(同)

 最近では、スマホ時代の到来により、自分の知らない所で、あらゆる個人データがどこかへ送信される機会も増加している。こうした時代の趨勢を彼らは“勝機”と捉えているに違いない。粗暴な強盗から、巧妙なサイバー犯罪へ――。中国マフィアの犯罪はこの10年で、ここまで様変わりしたのだ。

(取材・文/棟方笙子)

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