“便器臭”で精力増強…世界一臭い絶倫食材を使った料理とは?

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精力増強や気つけにも効くホンオフェ(写真/川口友万)
精力増強や気つけにも効くホンオフェ(写真/川口友万)

 世界で一番臭い食べ物はスウェーデンの缶詰「シュールストレミング」だ。ニシンの塩漬けの缶詰だが、熱処理をしないため、缶詰にした後も発酵が止まらない。発酵が進むと炭酸ガスが発生するため、缶詰はガスに押されて丸く盛り上がる。納豆の約20倍も臭いそうだ。臭さが20倍? まったく見当がつかない。

 そこで何人かで集まり、シュールストレミングを食べてみることになった。経験者によると、とにかく臭いらしい。室内で開けたら、部屋に臭いが染み込んで使えなくなるという。開けた瞬間にパンパンに詰まったガスで液が爆発し、放散する! だから手袋とゴーグルが必要だという……食べ物なのか、それは。エボラ対策じゃないんだから。気分は国境なき医師団である。

世界で一番臭い「シュールストレミング」

 そこまでのものか? と疑いつつ、公園で開缶した。部屋の中で開けて、万が一、その話が本当だったら、鼻水が鼻血に変わるほど奥さんに怒られるに違いないのだ。そんな勇気はない。

 俺がやります! と手を上げた若者は米軍放出品のガスマスクと手袋で武装し、ふんどし一丁で缶詰に挑む。ガスマスクでふんどしの男が缶詰ににじり寄る。露出狂の真性マゾヒストにしか見えない。危ない人よ、近づいちゃダメよ! 一応、裸には理由があった。服に液が付くと服を捨てないといけないのだ……だから、エボラなのか?

 缶切りの刃をシュールストレミングの缶に突き刺した。周りで見ている我々は後ずさりした。爆発する? 刃を入れた瞬間、その穴からぴゅるぴゅると肌色に濁った液が、ダメになった冷水器のように情けなくこぼれ出た。

 これだけ? 飛び散るんじゃないの? そこら中が汚染されてバイオハザードになっちゃうんじゃないの? 

 みんな、大げさだ。テレビでも、シュールストレミングを開けて臭い臭いと大騒ぎ、でも現実はこんなものなのだ。たかが食べ物ではないか。なんで缶詰なのにアメ横でガスマスクを買わなくてはならないのか。真昼の公園でふんどし一丁? 落ち着け、まったく。

 開缶すると、肌色の魚の身が半ば白濁した液体に何切れも浸かっていた。アンチョビの缶詰みたいだ。臭いはイカの塩辛? 酒盗? いやいやそんなぬるい臭いじゃない、これはあれだ、魚屋の前に捨ててある発泡スチロールのトロ箱の臭いだ。魚の血液やら中身やらが箱の下のたまって腐った臭い。たしかに臭い。だが、臭いと顔をしかめるぐらいで、逃げ惑うほどじゃない。

 食べてみる。噛んだら、シュワシュワと微炭酸のジュースを飲んでいるように歯茎や舌が刺激された。ガスが溶け込んでいるのだ。味は塩味が中途半端なアンチョビ。まずくもないがおいしくもない。アンチョビ食べてりゃいいじゃん、スウェーデン人……!! うおおお、口の中が! 口の中が便器だ!

 勘弁してほしい。なんだ、あれは。トロ箱の臭いが唾液と反応したのか胃液と反応したのか、なんだっていい、とにかく息が便器の臭い。しかも汲み取り式。夏のライブハウスの簡易トイレ、飯場の移動式トイレ、あの中にこもった猛烈な臭気が口の中から噴き出したのだ。

 吐きそうである。翌日、体中から下水管の臭いがした。世界一は伊達ではなかった。バカじゃないのか、スウェーデン人。では世界で二番目はどうか?

世界で二番目に臭い「ホンオフェ」

 場所は高田馬場の韓国料理店。私たちは世界で二番目に臭い料理、ホンオフェを食べるために集まった。ホンオフェは韓国語でホンオ=エイ・フェ=刺身の意味だそうだ。エイの身はアンモニア臭がする。死ぬと消化酵素が筋肉を分解し、アンモニアを発生させるのだ。その身を堆肥の上に乗せ、とことん発酵を進ませたのがホンオフェ。堆肥に人糞を使うという話もあるが、嘘か本当か。

 おめでたい料理だそうである。韓国では結婚式に出され、大きければ大きいほど喜ばれる。エイの身には軟骨が多いため、それが精力増強に良いとされるのだ。またアンモニアは強烈な刺激臭で、嗅ぐと瞬時に中枢神経が興奮し、脈拍と血圧が上昇、呼吸が亢進する。だから気つけ薬にも使われる。水木しげるのムッハー! な感じだろう。新婚カップルにぴったりといえばぴったりだ。

 発酵学者の小泉武夫の著作『不味い!』(新潮文庫)に小泉氏が韓国の木浦市(ホンオフェが名物なのだ)で本場のホンオフェを食べた体験が書かれている。世界中の発酵食品を食べた小泉氏だが、「口に入れた瞬間、激烈なアンモニアの臭いが鼻にガーン!!」と来て、「頭にもグワーン!!」、噛むと「目から涙がポロポロ、「こういう催涙性の食べ物」は初めてで、「不味という感覚には限りなく近い味」だったという。

 ……なんでそんなものをわざわざ食べなきゃならんのか。

 私が入っているサークル「世界の特殊食材と伝統料理を食べる会」の主宰者Iくんは、“料理をうまいまずいで語ってはならない”がポリシーなので、会員たちはそういう苦行に挑戦しなければならないのだ。

 場所は高田馬場にある韓国料理店。チヂミや三枚肉を食べた後で、予約していたホンオフェを注文する。出てきたホンオフェは、ただの白身の刺身である。付け合わせの青唐辛子、キムチ、煮豚と一緒に食べるものだそうだ。

 臭いを嗅ぐと、トイレの臭いがかすかにする。でも小泉氏が書いたほどではない。小泉氏によると韓国の料理本には、噛んで深呼吸をすると「100人中98人は気絶寸前となり、2人は死亡寸前となる」と書いてあるらしい。それは大げさじゃないか? とはいえ韓国で食べたことのあるIくんによると、本場のモノは発酵して半ば溶け崩れ、テーブルに持ってくる途中から臭いでわかるぐらいだったというから相当だ。

 さっそく口に放り込む。固い白身である。コキュコキュしている。発酵が足りないからだろうか。噛んでいると歯茎がピリピリする。これはアンモニアのせいか。刺激的ではある。

 小泉氏の真似をして息を吸い込んだ。こんなもんかあ……こ、こんな、な、どんなもんじゃあ! またか! また便器か! なんで口の中が便器になるんだ! 今度は小便器、男子トイレの、あのえづくような臭い、口の中が公衆便所。アンモニアがお口の中いっぱい。

 こんなものを食べて初夜? 初夜からどんなプレイだよ。大丈夫か、韓国の新婚さん。

 一緒に食べていた知り合いたちが、一斉にまずい~まずい~まずいよ~と口を開け、窒息寸前の金魚のように身をよじる。だから、そこで息を吸うともっと……くっせえ! 息が! 息がまっずい!

 息を吸っても便器、吐いても便器。なんでしょうね、なんでマズいものをわざわざ作りますかね。これが文化の違いってやつですか。

 非常に疲れた。食べて疲れるってどういうことだ。翌朝、歯を磨こうとしたら口から小便器の臭いがして、歯を磨いているんだか便器を磨いているんだか。こういう異文化交流は別にしなくても困らないんじゃないかなと思ったのだ。

(取材・文/川口友万)

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