台湾がアジア最大のLGBTパレードを開催できるワケ(前編)

デイリーニュースオンライン

(Photo by Luke Ma via flickr)
(Photo by Luke Ma via flickr)

【ゲイリーマン発 日本のリアル】

アジア最大のLGBTパレードが開かれているのは意外にもあの都市

 いわゆる「ゲイパレード」と称されるLGBTによる祭典は現在、欧米圏と日本を含むアジアの一部の国や地域を中心に毎年開催されています。筆者が暮らすここ東京でも、LGBTによるパレード「東京レインボープライド」が毎年開催されており、2014年は1万4千人を動員しました。

 約40年前にアメリカのニューヨークのゲイコミュニティに始まったLGBTによるパレードですが、アジアで最大のLGBTパレードが開かれている都市はどこでしょうか。

 パレード発祥地であるアメリカとの関係が最も深い日本の東京や大阪?

 13億人の人口を抱える中国の上海や北京?

 華やかなゲイカルチャーが有名なタイのバンコク?

 ……これらの都市ではなく、実はアジア最大のLGBTパレードが開かれている都市は、台湾の台北なのです。

 台北で開かれているLGBTパレード「ウォーク・イン・クィアズ・シューズ(Walk in Queers' Shoes)」の2014年の総動員数は約7万人。単純に東京のパレードの約5倍の規模とも取れますが、東京23区部の人口が約910万人なのに対し、台北市の人口は約261万人。台北市は東京23区の約3分の1以下の人口しかいないにもかかわらず、約5倍の規模のパレードを開いていることになります。

 ですので、数字だけで見た「7万人」という数字は、台北市民の感覚からすると私たちの想像する7万人を動員するイベントよりも遥かに強いインパクトを持つ祭典ということが想像できます。

 パレードの規模は、良し悪しは別としてその国に暮らすLGBTたちの当事者としてのアイデンティティ意識の高さを測る一つの指標とも言えます。

 実際のところ、台湾の立法院ではここ最近だけで3回も同性婚について審議されており、パレードには現在の台湾総統の馬英九氏も、野党時代の国民党党首としてあいさつに訪れるなど、台湾に暮らすLGBT当事者たちのアイデンティティ意識が比較的高く、社会的なトピックとしての情報発信に成功しているということは事実として間違いなさそうです。

 なぜ台湾がここまでLGBTの問題について取り組む姿勢があるのか、筆者なりに探りを入れてみたいと思います。

謎を紐解く鍵は台湾に住む人々の歴史にあった

 先日、国立政治大学選挙研究センターが行った台湾の人々を対象にした意識調査の結果が発表されました。このニュースは日本でも少し紹介され、自分を「台湾人だ」と答えた人の割合が過去最高になったと一部で報道されました。

 この質問、よく事情を知らない人にとっては意味不明な質問とも思えますが、このようなアンケートが成立してしまうこと自体が、台湾がたどった数奇な運命を物語っています。

 台湾島はかつて、16世紀頃にポルトガル人に「発見」され、オランダとスペインに分割統治された後、清王朝によって清の一地域となります。しかし、清王朝は台湾島を中華文化圏の外にある「化外の地」とし、そこまで高い関心は示しませんでした。

 19世紀末、日清戦争の末に台湾島は清から日本に割譲され、日本の一部となります。日本の敗戦によって権力の空白が出来た時、台湾として独立する機運も生まれましたが、日本に割譲される前の統治者であった清の後身である「中華民国」に再び併合されます。ちなみに当時の「中華民国」は中国大陸を統治する巨大政府でして、現在大陸を支配する「中華人民共和国」は、まだ共産主義ゲリラでした。

 しかしその後、日本との戦争を終えた中国では政府軍である国民党軍と、ゲリラ軍である共産党軍との内戦が激化。共産党軍は次々と地方を陥落し、窮地に陥った中国国民党はついに大陸を脱出。対岸に位置する台湾島に逃れ、中国大陸では中国共産党が「中華人民共和国」の建国を宣言。一方台湾に逃れた国民党は、台北を臨時首都と改め、多くの国民党関係者が台湾に移住し、現在に至ります。

「あなたの祖国は?」という質問が成立してしまう

 こうした歴史的背景から、台湾に暮らす人の中には様々な歴史認識が存在し、その歴史認識によって、「あなたの祖国は?」という問いに対して、様々な見解や立場が存在する事態が発生しています。

「ここは中華民国であり、私は中国人である」
「ここは台湾であり、私は台湾人である」
「ここは中華民国の台湾であり、私は中国人でもあり、台湾人でもある」

 私たちは「あなたの祖国は?」と聞かれれば、何も迷うことなく、例えば持っているパスポートの国籍を答えると思いますが、台湾に暮らす人々には、この質問の答えは簡単なものではないのです。(後編へ続く)

台湾がアジア最大のLGBTパレードを開催できるワケ(後編)

著者プロフィール

ゲイライター

英司

東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)

筆者運営ブログ「陽のあたる場所へ —A PLACE IN THE SUN—」

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