台湾がアジア最大のLGBTパレードを開催できるワケ(後編)

デイリーニュースオンライン

(Photo by Luke Ma via flickr)
(Photo by Luke Ma via flickr)

【ゲイリーマン発 日本のリアル】

 前編では、台湾の辿った歴史から、台湾には様々な歴史認識が存在し、それにより様々な立場の人が存在するという話をしました。後編ではそのことが、LGBTのパレードの規模とどう関係しているかを解説していきたいと思います。

台湾がアジア最大のLGBTパレードを開催できるワケ(前編)

アイデンティティの決定を迫られる台湾の人々

 学校に入れば、当然台湾の人々は自分の住む台湾の歩んだ歴史を学ぶことになります。その際、この歴史を通じて「自分は何人(なにじん)であるのか?」という、自己の存在の根幹に関わる問題に対して向き合うことになります。

 最初に学校で歴史を学ぶのは思春期や青春期の頃ですので、人格形成における非常に重要な時期に、同時に「自分は何者であるのか?」という自分自身の根本的なアイデンティティに関わる問題について、選択を強いられることになります。

アイデンティティに関する議論に慣れている台湾の人々

 筆者も大学時代に台湾の地誌研究をしている先生の授業を受講していたことがありました。その授業の中で見たあるビデオが印象的です。選挙を控えた台湾のドキュメンタリー番組でしたが、大学生の娘と父が、自分は台湾の歴史についてどう思うか、そして自分は何人であるのかということについて、食卓を囲みながら非常にカジュアルに議論をしているシーンでした。

 ドキュメンタリー番組の一コマですので、多少の脚色や演出も入っているかと思いますし、それをもって台湾人一般の意識を語ることはできないかと思いますが、例えば日本ではなかなか食卓で選挙の話を切り出す人はいませんし、親子であっても投票先は隠しておくものです。しかし「自分は何人であるか」ということを切り口にした途端、自分の国の問題と自分自身のことが一気に近い距離のものになり、結果的にその話題が選挙や政治の話になるにしても、切り口としては突然政治の話をするよりも非常に取っ付きやすく、自然な印象を持ちました。

 また、「自分が何人であるか」という問題について、国民党の独裁政権を体験しているご年配者はまだまだタブー視する人が多いそうですが、生まれたときから言論の自由が認められている今の若者は、むしろ親世代よりも積極的にこうした問題について論じる傾向があるとも言われています。

 セクシュアリティの問題も、自身は同性愛者/両性愛者である、ないしはトランスジェンダー等であると認めた場合、その後の生き方やライフスタイルに少なからぬ変化が生じます。つまり、セクシュアリティの問題も、自身のアイデンティティに深く関わる問題です。

 ストレートの人々が異性に興味を持ち始める思春期頃、同性に興味が出てきて苦しんだり、身体つきが男らしく、女らしくなっていくことに違和感や恐怖を覚え、自分のアイデンティティについて悩んだりするLGBT特有の苦悩も、とどのつまりは「自分は何者であるか」という問題であり、台湾社会が抱える特有のアイデンティティの問題と一部重なるところがあります。

 なので、こうした「アイデンティティに関する問題」に関して、その苦悩について他の国の人たちよりはストレートの人たちにも共感を得やすい土壌が台湾にはあり、LGBT当事者やその支援者も積極的に情報を発信し、LGBTパレードのような祭典にも積極的に参加していく現象が起きているのではないでしょうか。

さまざまなバックグラウンドを抱えた各国のLGBT

 このように、LGBTの問題はそれ自体が独立して存在しているわけではなく、その国の人々が辿った歴史や国民性、宗教、経済状況などにも深い部分で関わっており、LGBTの人権に関する議論は今後もっと多角的な相関関係の中の1トピックとして議論されるべきだと筆者は考えます。

著者プロフィール

ゲイライター

英司

東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)

筆者運営ブログ「陽のあたる場所へ —A PLACE IN THE SUN—」

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