吉田豪インタビュー企画:爆笑問題・太田光「逆に言うと、いまネットがなくなったら俺は生きていけない」(2) (3/4ページ)

デイリーニュースオンライン

ビートたけしより欽ちゃんのほうが本質的に残酷!?

──なんでこうなっちゃってるんですか?

太田 ……なんでなんだろうね?

──たけし遺伝子なんですか?

太田 うーん……。

──でも実際、たけしさんよりも波風を立ててますよね。たけしさん、殺害宣告とかされてないですから。

太田 ……そうねえ。この前、『TVタックル』でたけしさんと欽ちゃん(萩本欽一)の話をしたんですけど、欽ちゃんが好きだった自分があって、たけしさんが出てきてガラッと変わったときが、ちょうど思春期の、ホントに漫才ブームのときっていうのは価値観が変わっていく瞬間があって。音楽ではサザンが同じ時期で。あの前は、僕はアリスの大ファンでハンド・イン・ハンドだから。

──ダハハハハ! タモリさんとかから否定されるような側だったわけですね(笑)。

太田 そうそう。文学でもそれまでは谷村新司さんが好きだって言ってた亀井勝一郎とか『愛と祈りについて』とか、もっと人間的なものが好きだったのが、太宰治を知って変わった。これはべつにリアルタイムではないんだけど、だからホントに全部あの時期なんですよ。松田優作が『探偵物語』をやったのもあの時期だし。

──1980年頃ですね。

太田そうすると、あの頃の自分は180度逆に振れるわけじゃない、若い頃だから。それで欽ちゃんを否定する、アリスも否定する、ヘタすりゃチャップリンまで否定しかねないところまでいくんだけど、今、たけしさんと話してたり、あるいは桑田(佳祐)さんが『ひとり紅白歌合戦』で中島みゆきの『時代』を歌ったりしだすと、「薄々はわかってたけど、やっぱりそんなに嫌ってなかったんだ、こういう人たちのこと。でも俺、あんたのおかげで結構嫌いな時期あったよ」っていうさ。たけしさんと欽ちゃん、本来どっちが残酷な芸かっていったら絶対に欽ちゃんですよ。

──確実にそうですよね。

太田 欽ちゃんって人はホントに自分という人間の追求にしか興味ないからね。たけしさんは人のためにやるじゃないですか、なんでも。たけし軍団を作ったりもそうだし。

──お弟子さんとの関係が全然違うし、欽ちゃんは言っちゃえば頭おかしいですもんね。

太田 ある意味狂気ですよ。当時のパジャマ党との関係なんか聞いても、恐ろしい部分があるでしょ。

──ダハハハハ! そうなんですよ(笑)。

太田 それ考えたら、欽ちゃんファミリーなんて誰ひとり幸せになってないから。

──ファミリー感が全然ないですもんね。

太田 ないよ。あんなに残酷で冷酷な人はいないと思うけど、だからこそ芸人としては徹底できるんですよ、あのイジメ方。

──君塚良一さんがパジャマ党の放送作家だった頃、新番組が決まったから2クールぶん急いで脚本書いてくれって欽ちゃんに言われたらしいんですよ。で、いざ完成したら「あのね、これ冗談。そんな番組ないの」って言われた伝説もあって(笑)。

太田 ハハハハハハ! だからどうかしてるよね。

──おかしいんですよ、ホントに。

太田 で、いま大学生でしょ? 何やってるんだっていう話じゃん。もっと助けてほしい人、いっぱいいるわけでしょ。いまの欽ちゃんにその力があるかどうかは置いといてもさ。

──だから、ある時期、「欽ちゃんは真面目でつまらない」って感じで叩かれてたのも誤解っていうことですよね。あんなにおかしな人もいないのに。

太田 世間が思うほどヒューマンじゃない厳しい芸なんです。こないだたけしさんと話してて思い出したんだけど、欽ちゃんが『24時間テレビ』やってるときに俺ずっと見てたからわかるんだけど、よく見てると欽ちゃん泣いてないんですよ、あの番組で。みんな最後は号泣するでしょ。欽ちゃんは絶対泣かない。マラソンの時もケロッとゴールしちゃう。それがあの人の芸人としての矜持だと思う。欽ちゃんが泣いてるところって、ほとんど見たことない。でも、たけしさんはお母さんが亡くなったときに号泣したし、『たけしくん、ハイ!』を出したときに、やっぱり「あれ?」ってちょっと思ったんですよね。「あれ? たけしさん、こういう牧歌的なヒューマニズムみたいなの嫌ってたんじゃないのかな?」って思ったけど、むしろいまや、たけしさんのほうがヒューマンじゃないですか。

──欽ちゃんと比べたら圧倒的にそうですよね。

太田 そうするとやっぱり欽ちゃんとかさんまさんのほうが残酷だし、ましてやタモリさんとかは相当クールですよ。そう考えると、たけしさんはもちろん好きだし(立川)談志師匠も好きだけど、たけし、談志のほうが人に優しいと思うから。俺はどっちにも揺れてるんですよ。バスター・キートンとチャップリンみたいなことと一緒で、どっちがホントにいいんだろうっていうか。

──たけし、談志ラインは口が悪いから表面的に捉えられがちですけど。

太田 うん。談志師匠も弟子に対してひどいっていったって、あんなに弟子のことを思ってた人はいないですからね。

──欽ちゃんと比べてみろって話ですよね(笑)。

太田 そうそう(笑)。ホントに欽ちゃんの厳しさは……いまとなってはですけどね。

──本人にも直接インタビューで聞いたことありますけど、完全に異常者ですよ。

太田 要は笑いを科学的に論理的に考えてるでしょ、あの人。そこに人情とかは入り込まない。

──まったくないですね。

太田 とにかくバッサリいくからね。

──家族関係とかも異常ですもんね。

太田 そうなの?

──息子さんが自分に対して緊張してるように見えたっていうことで、「じゃあおまえたちが思春期のあいだ、俺は帰らない」って言って7~8年帰らなかったりとか、そういうことが出来る人。

太田 ああ、そういうことやりそうだし、そういう人だよね。奥さんに対しても、ずっと隠してたり。不思議な人ですよね。あっちのほうがむしろ昔ながらの破天荒な芸ですよ。どうかしてるんだよな。

──そうなんですよ。

太田 そういう自覚もないけど、難しいとこですね。たけしさんの人間的な温かみってうのはもうみんなに知れ渡ってるから、たけしさん自身も難しいと思うけど、被りものしてああやってることすらカッコいいっていうことになっちゃうと、もうやりようがなくなるんじゃないかなって。俺が心配することじゃないけど。

──その通りです(笑)。

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