中国人大学生が共産党の手先に…「統戦」に縛られる地獄のキャンパスライフ

デイリーニュースオンライン

社会主義の核心価値の壁紙になっている大学のパソコン
社会主義の核心価値の壁紙になっている大学のパソコン

 大学といえば、自由で楽しいキャンパスライフというイメージがありますが、中国では近年、習近平の「統戦」戦略の影響を受け、息苦しくなっています。

 統戦というのは、「異なる思想を排除し、粛清する」という毛沢東時代に誕生したプロパガンダシステムで、これの行き着くところは文化大革命になります。そして、この統戦が実施されるのが小学校から大学に至るまでの教育機関なのです。

 大学生にもなれば、そんな思想統制からは解放されるのではないかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ、これから社会に送り出す上で、これまでの統制の最終仕上げとして、大学が最も重要視されているぐらいです。

 最近起こったことの実例を挙げてみましょう。

 学生寮で生活している大学生たちの部屋に、突然、先生たちがドアをノックして訪問してきます。そしていきなり質問をします。

「社会主義の核心的な価値を述べよ」

 このとき、生徒がドアを開けない場合、中の生徒の携帯を鳴らします。更に電話に出でこなければ、翌日の授業中にその生徒をさらしあげて批判大会をするといった具合。これはもはや生徒に精神的なストレスを与えるストーカー行為と言っても過言ではありません。

 ちなみに、先の問いに対する答えは、「富強 民主 文明 和諧 自由 平等 公正 法治 愛国 敬業 誠信 友善」です。これは十八大(全人代)にて習近平が「中国夢」として発表したもの。全て実現できない絵空事ばかりですが、習近平はこれを唱えることで自身の政治を正当化したいのでしょう。今の学生は必ずこれを暗記して、いつ何時でも答えられるようにしていなければなりません。

 さて、学校に行くと、更に窮屈な生活が待ち受けています。図書館の最も目立つ棚には「習近平語録」のような書籍が並べられています。また、学校のパソコン室にズラリとならんでいるパソコンを見てみると、「社会主義の核心的な価値」と記載された壁紙が一様に貼り付けられています。その異様な光景を見た生徒たちは、当初、パソコンがウイルスにかかったのではないかと思ったほどでした。

 そんな学校のパソコンのネット回線は、専用のプロバイダ回線が用いられています。民間のプロバイダよりも多くの規制が強いられ、ろくに見たいサイトを見ることもできません。ほんの少しでも共産党にとって都合の悪いことが載っていたら全て遮断されます。学生と言えば、世界中の広範囲にわたる知識を会得し、見識を深めなければならないものですが、中国の学生たちはそういう情報から遠ざけられ、偏った知識だけを教え込まれているのです。

大学生がネット世論誘導員に仕立てられている

 最近は統戦を強化するため、更に酷い手段が取られています。中国には、ネット上で共産党の手先となり、共産党にとって都合のいい書き込みを行う「五毛党」と呼ばれている者たちがいます。彼らは一つの書き込みをするごとに「五毛(0.5元)」のお金がもらえるということで、そう呼ばれているのですが、ウイグル問題やら香港問題、大気汚染などの問題を抱えている近年は、ますます世論を誘導する五毛党の数が必要となってきています。

 とはいえ、中国政府にとっても、そのお金をねん出するのはなかなか大変です。2014年、中国では軍事費よりも、社会の安定を維持するためのお金「維穏費」の方が上回ることとなり、それに対する国民の反発も相当なものでした。そこでその解決策として、大学生らを「無給五毛」に仕立て上げられることになったのです。そのことが発覚したのは、以下の情報がネット上に拡散されたためです。

「上海東華大学の各学部にて、講師が大量のQQ(中国のSNSサイト)のアカウントを作成。IDとパスワードをセットで生徒に渡し、ネットの世論誘導をさせた。授業の一環として行わせているため無給。成果の高い生徒たちは、より高い成績を与えられていた」

 この授業においては、たとえ自分がそう考えていなくても、ひたすら共産党を礼賛し、反中共の書き込みをしている者に対しては罵倒しなければなりません。これは大学側が詐欺行為の片棒を担がせていると言ってもいいでしょう。

 ただ、この国においては、個人の自由で思想を選ぶことなどできません。この授業ではある意味、何の疑問も抱かずにその思想を信じ込み、そしてそれを世に広めることのできる者こそが出世できるという、中国社会における真実を教え込んでいるとも言えます。中国という国においては正しい教育なのかもしれません。

 僕の大学時代もこうした思想統制は多かれ少なかれありましたが、今の大学生は更にかわいそうだと思ったものでした。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/杉沢樹)

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