中国では『絶歌』出版不可…殺人犯に言論の自由が存在しないワケ

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中国人が驚くワケとは!?
中国人が驚くワケとは!?

 こんにちは。中国人漫画家の孫向文です。最近、僕が気になったのは、異常殺人者である少年Aのニュースでした。少年Aが犯した凄惨極まりない犯罪も今回、初めて知ったので衝撃を受けましたが、やはり何よりも驚いたのは、そんな殺人者が本を執筆したということです。これは中国だと、まずあり得ない話です。

 中国の場合、出版社は本を出版する際、中国共産党の検閲を受けなければなりません。そのため、殺人者の本の企画が通るはずもありません。例えば、プロのライターが雑誌で犯罪者をインタビューするケースは多々ありますが、犯罪者自身が著者となると話は別です。

犯罪者には発言権・出版権などない

 ウイグル人のイリハムさんという方は国家分裂罪の罪を着せられて逮捕されましたが、ひとたび、こうした犯罪者と見なされてしまうと公の場で発言する権利や出版権などは全て失われます。犯罪者には発言権などないというのが、中国人の一般認識です。ですから、中国人は、少年Aのような異常人物が本を書くなどという発想を思い付きません。

 また、仮にプロのライターが犯罪者を取材して本を出版することになったにせよ、『絶歌』に記載されているような内容は書けないでしょう。というのも、殺人や泥棒、婦女暴行、薬物売買など、ありとあらゆる刑事犯罪の詳細な手口は、新聞や雑誌などでも書いてはいけないと定められているためです。

 これは、犯罪を真似する模倣犯が出てきたら困るためです。少年Aは、著書の中でどこで凶器を準備して、どういうふうに殺して……といった過程を事細かく描写していますが、こうした内容は全てNGです。では、仮に中国に置いて少年Aの本を出版するとなったらどうするかというと、徹頭徹尾、懺悔する内容にするしかないでしょう。

「私はこういう犯罪をしてしまったから、何年間も刑務所に入り、何もかも失った。だから、皆さん、犯罪はしてはいけません。本当に申し訳ございませんでした」

 こうした内容を、全てライターが取材したという体裁で書くのです。これならば、犯罪抑止につながるから社会的意味があると見なされ、出版できる可能性はあります。もっとも、これだけで一冊の分量になるのかというと、厳しいのかもしれませんが……。中国で一つの犯罪事件をまとめた本はほとんど見かけません。

 このように厳しい中国の出版事情ですが、犯罪者がテレビで晒し者にされるケースは多々あります。手錠をかけられた犯罪者が警察官に付き添われてテレビ局に現れ、カメラが向けられる中、被害者に対して頭を下げて謝り、罪を悔いるのです。

 ときどき、このような犯罪者の懺悔が収録された特番が組まれていますが、これは犯罪抑止力という点では効果抜群です。こういう犯罪に手を染めると全国放送で謝罪しなければならないと世間に知らしめることができるのですから。犯罪者は人間扱いされないため、警察からテレビに出演しろと命令されれば、それを拒否することはできません。

 僕は、これまで中国の言論統制や表現規制に異を唱え、日本の自由な表現を賛美してきました。僕の本は中国で出版できる内容ではなく、僕自身もそんな自由な日本の出版業界の恩恵を被っている者の1人です。ただ今回ばかりは、こんな異常殺人者にまで表現や言論の自由を与えるというのはどうなのだろうかと、疑問を覚えずにはいられませんでした。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/杉沢樹)

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