吉田豪インタビュー企画:作詞家・及川眠子「エヴァンゲリオン主題歌は通りすがりでもらった仕事」(2) (2/3ページ)

デイリーニュースオンライン

詞を書く相手とはなるべく距離を置く

──作詞の仕事をしているといろんな人生を目の当たりにしてきたと思いますけど、仕事相手とはそんなに深く付き合わないタイプなんですよね。

及川 ええ、付き合わないです。突き放せないから、下手に相手のことを知っちゃうと書くときに慮っちゃうんです。こんなこと書いたらかわいそうかなとか。

──だから距離を保とうとする。

及川 親しい人間もいますけど、なるたけ距離がないと、かえって書くものに対して手加減してしまう。

──わかります。ボクも同じ理由で、取材相手とは仲良くならないようにしてるんですよ。

及川 ただ、人によっては「え、こんなの俺は歌えない」「いや歌えるよ!」とか言える相手もいるんですよ。そういう人とは仲良くなりますけど、女の子はダメですね。女の子を完全にプロデュースする場合、私は縦の関係を築くんですよ。だから苗字呼び捨ては鉄則ですね。ほかの人たちが「なんとかちゃん」って呼んでても。

──上下関係をキチッとして。

及川 じゃないと女の子は言うこときかせられないんですよ、同性は。甘えてきちゃったりするから。かえって異性のほうがフラットでやれますね、殴る蹴るできますしね。

──殴る蹴るするんですか!

及川 してないけど、いざとなったら(笑)。女の子は泣かれちゃうとそれで終わっちゃうから。毎回泣かれるとうんざりする、またかよって。

──具体的にやりやすかった人っていうと?

及川 アーティストってあんまりどっぷりいかないんで、そんなにやりにくい人っていないんですよ。一番やりにくいのはバンド。おまえら順番にひとりずつ違うことを言いに来るなよ、その前にミーティングして意見まとめてそれ渡してくれよっていう。

──それは本来なら自分たちが詞を書きたいのにみたいなものも引っかかって。

及川 それもある。だから「おまえたちの詞じゃ売れないだろ」「だから職業作家さんに頼もう」ってディレクターとかプロデューサーに言われてて、その時点でもう気に入らないわけですよ。

──そういう仕事やりたくないですよね。

及川 うん、あんまりやりたくないですね。自分はシンガーだって割り切ってる人はやりやすいですよ。

──仕事の幅は異常に広いですよね。

及川 広いですね、ド演歌をやらないぐらいで。

『エヴァンゲリオン』主題歌の作り方は雑でした(笑)

──及川さんのTwitterを見て一番印象的だったのは、『残酷な天使のテーゼ』をこんなに過小評価してる人はいないっていうことで(笑)。

及川 ハハハハハ!

──当事者が一番評価してないんですよね(笑)。

及川 だって通りすがりに仕事もらったんで(笑)。

──思い入れがまったくない。

及川 うん、あんまりないの。みんな誉めてくれるんですけどね(笑)。

──そもそも『エヴァンゲリオン』自体ろくに観てないんですよね。

及川 1話だけちゃんと観たんですよ。っていうのは、テレビの本編があって映画になるときに、1話分だけ大月(俊倫、キングレコード専務取締役)さんに渡されて。「これを観て思ったことを書いて」って言われたの。それが死んで生き返るっていう回だったんですよ、何話かとかも全然わかんないですけど。だから『魂のルフラン』なんです。

──テレビ版のときも一応2話ぐらい見せられたんでしたっけ?

及川 最初に作るときに分厚い企画書と、2話分のセリフも入ってない、色もついてなかったのかな? そのビデオを「まあ、参考までに」みたいに渡されて、早送りでバーッと。

──しかも早送り!

及川 うん(笑)。

──なんとなく理解して。

及川 うん、なんとなく。

──なんかスケールのデカい話らしいぞ、ぐらいのことはわかったんですか?

及川 企画書も斜め読みなんで(あっさりと)。

──うわーっ!!

及川 14歳の子と、年上の女とお母さんっていうのが、これはキーワードになるな、と。で、「誰が歌うんですか?」「高橋洋子だ」と。高橋洋子だったら14歳の少年少女の立場から歌ったら変でしょっていう、そこの発想だけなんですよ。

──なるほど。それで「年上視点で少年に話しかけるような詞でいいだろう、以上!」みたいな。

及川 そう、「以上!」(笑)。「少年よ神話になれ、以上!」っていう。

──雑ですよね(笑)。

及川 雑です(笑)。

──当然、ここまでのヒットになるとも思わずにやってるわけですからね。

及川 だってテレ東の夜6時だか6時半の番組で、こんなにヒットするなんて思いませんよ。

──こんなに何年も何十年も聴かれ続けるとは。

及川 そう! 通りすがりで頼まれただけなのに(笑)。

──でも、ほぼその見立てが合ってたわけですよね。母親がキーワードなのはかなり深い部分の話ですから。

及川 そうですね、それは企画書斜め読みでもなんか伝わってきたんで。曲が先だったんですけど、3曲用意されてて、アレンジャーは大森俊之に決まってたらしいんです。で、大月さんが「大森さん大森さん、この3曲のなかでどれが一番いいと思う?」ってその場でカセットテープ聴かせて、「これかな?」「わかった、じゃあそれにしよう」って。

──いちいち雑な(笑)。歌詞の直しは1ヶ所だけだったんでしたっけ?

及川 うん、『少年よ凶器になれ』にしたんですね。それはテレビ的にダメだって言われたんですよ。で、「『凶器』だとみんな『狂気』だと思っちゃうからほかの言葉考えて」って言われたんで、「じゃあ『神話』で全部統一してください」って言って。

──全然違うじゃないですか(笑)。でも、「神話」で正解ですよね。じゃないとあのスケール感は出ない。

及川 そう。それだけかな。基本的に直しを入れない人なんですよ。

──「狂気」だったらある意味正解なんですけどね、そんな話ではあるんで。その後、観てはいるんですか?

及川 観てないです(あっさりと)。で、いろいろ言われるんですよ、「ナントカカントカは」って難しいこと言われてキョトンとすると、「あ、やっぱり観てないんだ」とか言われる(笑)。

──「使徒は」とか言われると「へ、使徒?」みたいな。

及川 そう、「使徒?」とか。誰と誰が闘ってるんだろうっていうところがわかってない。

──そもそもアニメ自体まったく観ないんですか?

及川 観ないですね。『デビルマン』ぐらいで終わってますね。

──相当早い段階で脱落してますね。自分絡みのものを観ようっていうふうにはならないんですか?

及川 あんまりならないですね。べつに観てないかな。いまやってる『(手裏剣戦隊)ニンニンジャー』も観てないですね。こんな時間に起きられるかと思って。

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