人間の目にはピタッと止まっているように見える物体であっても、じつは止まっていない。原子の動きを観察できるレンズがあったとすれば、静止していると思っていた物体が振動する粒子の集まりであることに気がつくだろう。
そうやって動き回る物体を超冷却すれば、原子は完全に動きを止める。この純粋な量子状態を「振動基底状態」という。
これまで重量ナノグラムレベルの数百万の原子の雲ならば、どうにか静止させることができていた。だが今回、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが実現したのは、原子どころか人間ほどの大きさのある物体をほぼ完全に静止させることだ。
・振動基底状態とは?
物体が常に動いているのは、それを構成する原子がお互いや外部の影響と相互作用しているからだ。こうしたランダムな動きは、温度という形になって現れる。
したがって物体を絶対零度にまで冷却することができれば、動きは止まる(厳密には不確定性原理のために振動は続く)。これが振動基底状態だ。
誰かが投げたボールをキャッチしたときのことを想像してほしい。ボールが手の中でピタッと止まるのは、手によってボールが飛んできたときと同じ量の力が正反対から加えられたからだ。
原子もこれと同じで、等量かつ正反対の力で振動のエネルギーを相殺してやれば、動きを止めて温度を下げることができる。これをフィードバック冷却という。