「無礼者!」
思わぬ粗相や狼藉により、不興を覚えた者の口走るこのセリフ。
不興を買ってしまった者には、状況しだいで死刑宣告に聞こえる重さがある一方、第三者には「小物感」が伝わってしまう軽さもあります。
(そんな些細なことで、いちいち目くじら立てなくても……)
やはり大物であれば、ちっとやそっとの事で動揺したり、声を荒らげたりなどしないもの。
そんな美学は戦国時代の武士たちも同じだったようで、今回は独眼竜として有名な伊達政宗(だて まさむね)のこんなエピソードを紹介したいと思います。
そんな一撃、痛くも痒くもない!が……今は昔、ある時のこと。政宗の屋敷へ旗本の兼松又七(かねまつ またしち)が見舞いにやって来たそうです。
「伊達公におかれましては、ますますご活躍と聞き及んでおりまする……」
「いやいやそれほどでも、ははは……」
と言ったかどうだか、他愛ない(特に内容を書き留めるほどでもない)雑談に花を咲かせ、さぁそろそろ帰ろうか……といったその時。
「……っ!」
いったい何を思ってか、又七は突如として政宗に跳びかかり、持っていた扇でその頬っ面を強打したと言います。