多くの人が、過去に誰かに傷つけられた経験を持っている。それと同様、誰かを傷つけた経験も持っている。たとえその時は傷つけている自覚がなかったとしても、その「誰か」は今でもその傷に苦しんでいるかもしれない。
時代によって価値観や善悪の観念が移り変わっていくなかで、私たちは「過去の無自覚な加害」にどれだけ自覚的でいられるのだろうか。そして、「加害を行っていた自分」とどう向き合っていけばいいのだろうか。
カツセマサヒコさんの新刊『ブルーマリッジ』(新潮社刊)は、部下の告発から人生が瓦解していく土方剛と、ある出来事によって婚約者との幸せなはずの日常に暗雲が垂れ込める雨宮守の人生を通して、多くのことを問いかける物語だ。
今回はカツセさんにインタビュー。この物語がどのように構想され、書き上げられていったのかをうかがった。
(インタビュー・記事/山田洋介)
■「無自覚な加害」の可能性に気づいたことで生まれた物語――『ブルーマリッジ』はカツセさんにとって3作目の長編小説です。まず、構想段階で考えていたことについてお話をうかがえればと思います。
カツセ:7〜8年くらい前から、フェミニズムやジェンダーに関する記事や書籍に触れる機会が増えていったのですが、そこで知識を得ていく過程で、過去の自分の言動やコラムで書いたことが、あまりに加害性に満ちていたことに気が付いていきました。2作目の『夜行秘密』を書き終えた頃から、自分の中にもあったこの「無自覚な加害」というテーマで小説を書いてみたい、と思うようになった気がします。
――知らず知らずのうちに誰かを傷つけていた、という経験は誰もが持っているでしょうね。
カツセ:そうですね。それをどうしたらいいのか。謝るにしても相手が今どこにいるかわからないかもしれませんし、そもそも謝って済むなんて都合のいい話もないわけです。許されたいがために謝るのは加害者の傲慢でしかない。では、こういうモヤモヤした気持ちとどのように向き合うべきか。