尖閣諸島紛争から2年...国有化の裏に何があったのか:後編

尖閣諸島紛争から2年...国有化の裏に何があったのか:後編

 石原氏が意図する尖閣の実効支配の強化は中国を怒らせる。それを防ぐために是が非でも国が買わねばならない――そう野田首相は思っていた。そして野田の側近である長浜博行参議院議員が密使として、K氏のもとへ送り込まれた。長浜氏がK氏に初めて会ったのは晩春のころのことだ。

 彼に当時のことを尋ねた。

「はい、交渉のために何度もお会いしたのは事実です。K氏は繊細で大変慎重な方でした。この交渉は役職上やっただけにすぎませんよ。あまり注目していただきたくありません。単に任務をこなしただけです。単なる不動産売買です」

 そういって口を閉ざした。

 昨年出版された『暗闘 尖閣国有化』(春原剛・著)には長浜氏の詳細な証言が記されている。その要旨はだいたい次の通りである。
 長浜氏とK氏の両者は最初のころこそ腹の探り合いに終始した。しかし長浜は、考え方を変えることで、突破口を切り開いていく。その考え方とは次のようなものだ。

「この人にとっては『故郷の一部』を売るような案件だった。なので『なぜこの方がこの問題に巻き込まれているか』と相手の立場を一番に考えました」

 長浜氏が相手の気持ちに寄り添って接したところ、繊細で大変慎重なK氏は次第に心を開いていき、長浜氏はK氏から昔の写真を見せてもらえるまでになった。

 しかも財務省が思わぬ形で野田政権を後押しした。6月末、内閣予備費を使っても良いというお墨付きを与えたのだ。都が額面で自由に価格決定が出来ない一方で、国は自由に金額を出せることになった。

 このように、実際は案外早い時点で国がすでにリードしていたのだ。

 話を筆者の聞き取りに戻そう。

 石原氏の側近H氏も予備費という切り札について話している。

「国は国家予算の予備費を利用しての購入を検討しますから、本気で購入を検討しているならば金額面において都側に勝ち目はないんです。

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