京の和菓子屋で、夜道に現れた「何か」について聞いた話【ささや怪談】 (3/3ページ)
あのね、違ってたみたい」
「えっ?」
「里山の動物だったんだって。あの辺りを開発した時に亡くなった動物たちの幽霊だったって。人間じゃなくて、動物たちの影がいっぱい集まってできた雪だるまみたいな」
どう答えたら、良かったのだろう。
証言ひとつで、どこまでも話が変わってゆく。
「そんなことも、あるんですね」
わたしは、戸惑いを隠さなかった。それに、妖怪が出て来る話なら、それもまた面白い。
「いま、ガッカリしたでしょう。動物の幽霊なら、大したことないとかなんとかって、ちょっと気が抜けたんじゃない。気持ち悪い幽霊が出ないから、怖くないとか」
「そんなことはないです。大丈夫です」
セイさんは、穏やかに微笑みながら、話を続ける。
「怪談はね、怖いだけが役目じゃないの。動物たちの犠牲だって、あっさり忘れていいわけがないわ。すみかを追い出されて飢え死にした動物だって、好きで死んだわけじゃないから。だから、そういう声を伝えるのも、語る人の使命なんじゃない。私はそう思う」
きっぱりと、断言した。
もっともだ。
怪談だって、忘れられたものの声を、語り継げる。
声なき声。
失われた物語。
ちょっと待てよ。
この話の時系列は、どっちが先だ。里山の工事が先で、交通事故が後で。どちらも本当に起きたことだとしたら。もしも、交通事故の原因が、そういったものだとしたら。
勝手な空想だけが、どんどん膨れ上がってくる。
どんなものにも、爪と牙がある。この話の教訓のひとつは、そういうことだ。
だから、そういうことが起きていたとしても、不思議なことは何もない。なにせ、確かめようがない。わたしは、かつて起きたかもしれないことを、静かに想像する。
セイさんと店長はといえば、店の奥でみたらし団子を焼き始めた。小路を通る人たちが、団子を焼く匂いに誘われて、店の前を興味深げに眺めてゆく。
わたしは、ぼんやりと足元を眺めていた。すると、道端に並べられた小さな鳥居が目に飛び込んできた。京都の人たちは、こういった鳥居に対して、いまでも敬意を払っている。
生真面目なほどに。
わたしは、鳥居たちに向けて、心の中で語りかけた。
「おまえには、どんな物語があるんだ?」
筆者:前田雄大怪談団体「クロイ匣(ハコ)」の主宰者。関西を中心として、マイペースに怪談活動を行っている。https://twitter.com/kaidan_night