京の和菓子屋で、夜道に現れた「何か」について聞いた話【ささや怪談】 (1/3ページ)
京都駅から、バスで十分ほど。
中心部の繁華街をすこし外れると、ほっそりした小路がある。静かな道の奥から、砂糖醤油のタレの甘い匂いがする。それに釣られて歩くと、和菓子屋Kに出会う。
わたしは、ここの常連だ。一本ごとに焼きたてのみたらし団子が好きで、仕事帰りにいつも通っている。熱い団子を頬張るたびに、一日の疲れが薄くなってゆく。甘さは控えめ、自己主張はしない。けれど、しょうゆと餅の味が、しみじみと効いてくる。仕事疲れでぼんやりした頭を、スッキリさせる味だ。
和菓子は、クリームと砂糖をたっぷり使った菓子よりも、優しく出来ている。お腹にもたれないところも、好きだ。日本人は、米と豆の味から逃れられないのではと思う。
今日も、セイさんと店長が、団子を焼いている。店長は、カシュー・ナッツが大好きなロマンスグレーの偉丈夫。そして、セイさんは、いつも微笑みを絶やさない人だ。セイさんのトレードマークは、ショートカットの髪型と緑色のエプロンだ。そして、この店の人たちは、わたしが怪談を集めていることに対して、理解を示してくれている。
「昨日、前田くんが聞きたそうな話を聞いたわ」
「どんな話ですか?」
「この前、うちの姉が、変なもの見たって言うのよ」
わたしは、黒塗りの長椅子に腰掛けてから、黙ってつづきを聞く。もちろん、みたらし団子とほうじ茶を頼む事は忘れない。どちらも、さっぱりとした味で、スッと流れてゆく。焼きたてというのが、特にいい。冷たい団子には、冷たい団子ならではの良さもある。だが、焼きたての団子には、ささやかな幸せがある。
「あれはね、夜の二十三時ぐらい。姉が、散歩に出かけた時のことなんだけど」
Kという町でのことだった。
わたしも、写真で見たことがある。里山と自然に恵まれた、うつくしい場所だ。しかし、今は、どこにでもある町になろうとしている。
Alexさん撮影、Flickrより
「真っ白くて大きなものがいたの」
夜道を歩いていると、道端の空き地で、何かがふわりふわりと浮かんでいた。
それは、白い気球のような形をしたものだった。