まったく眠れなくなり死に至る病「致死性家族性不眠症」 (2/5ページ)
シルヴァーノの姪の夫であるイグナツィオ・ロイターと、その友人ピエトロ・コルテリのふたりの医師によってさらに調査が進められた。結果的には、シルヴァーノやその家族の命を救うことはできなかったが、脳の徹底的な調査によって、ついにこの病の原因のひとつがわかった。FFIの原因物質「プリオン」とそれが人体に及ぼす影響
遺伝子異常によってタンパク質のプリオンが変形、脳内に蓄積してしまうことが元凶だったのだ。どういうわけか、中年期にだけこの変形プリオンが異常に増殖してたまり始め、ニューロンに害を及ぼす。
FFIは、かつて騒ぎになったクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や狂牛病と同じプリオン病のひとつとされている。今日、長年の調査によって、プリオンはまわりの環境に対するわたしたちの自律反応を調整していることがわかっている。だから、これが壊れると、脳内がめちゃくちゃになってしまい、異常な発汗や瞳孔の収縮、無気力、便秘、慢性不眠症などの症状があらわれる。
FFIでは、不眠に苦しむだけでなく、周囲に対する知覚や意識がなくなる人事不省になることもある。コルテリによると、これは深い眠りのときにあらわれるレム睡眠の状態と似ていて、患者は夢を行動で表わしているという。テレサというある女性の場合、常に髪を梳くような仕草を繰り返していたが、彼女は発症する前は美容師だったという。
未知の治療に挑んだ患者
FFIの患者は、発症すると肉体的にも精神的にも急速に衰えて、2年以内に死んでしまうという。しかし、1990年代にはこの運命に抗おうとした患者がいた。FFIの遺伝子を持っていたアメリカ人男性ダニエル(家族のプライバシーを守るために名前を変えた)は、ただ死を待つだけでなく、常軌を逸しているようなものも含めて、ありとあらゆる治療法を試した。ビタミンのサプリを飲み、定期的に運動して全身の健康状態を改善させ、ケタミンや笑気(一酸化二窒素)などの麻酔薬まで用いた。
ジアゼパムのような睡眠薬を服用すると、15分程度のうたた寝はできるが、それではちゃんと睡眠をとったことにはならない。