AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【5】

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AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【5】
AV業界は自滅する?大規模なガサ入れをした警察の"真の目的"とは【5】

 この連載中にAV業界に動きがあった。業界団体の『NPO法人 知的財産振興協会(IPPA)』が人権団体『ヒューマンライツナウ(HRN)』と会合を行い、下記のような声明を発表したのだ。

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(以下はIPPAのオフィシャルサイト http://www.ippa.jp/index2/ より抜粋)

1)プロダクションや制作会社との間でコードオブコンダクトを締結し、強要しない、違約金請求しない、同意のない作品には出させない、人権侵害を行わない、適正な報酬を支払う、等の項目を具体化し、それを承諾したプロダクション・制作会社としか取引しないようにする。

2)出演契約にあたっては、女優の頭越しに契約するのでなく、女優が参加したうえで契約を締結する。その際、プロダクションの監視により女優が自由に意思決定できない事態を防ぐため、マネジャーが同席しない場での真摯な同意があるか意思確認するプロセスを踏む。

3) 女優が出演拒絶した場合、違約金を請求せず、メーカーが損失を負担する。違約金に関しては保険制度等を活用する。

4)1)が守られていない等の苦情申し立てに対応する機関を設置し、1)が守られていない疑いが強いものについては、販売差し止めを含む救済策を講じる。

5) 女優の人格権保護のため、プライベート映像の流出・転売等を防止し、流通期間に制限を設け、意に反する二次使用、三次使用ができない体制をつくる。

この会議の後、NPO法人知的財産振興協会の理事社にて話し合い、この要望に沿い業界の健全化へ向け、メーカーとしてもプロダクション側に働きかけていくことを決議、実行することに致しました。

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 HRNからの要望を受け入れ、それに沿って業界のルールを作り変えて行くといった内容になっているが、ここに大問題がある。一連の連載記事を読み続けてくださっている方なら文面に疑問を感じたと思うが、なんと最大の難問である「AV女優と労働者、AVと有害業務」という概念がまったく抜け落ちているのだ。

 労働者派遣法に対してどう考えるか、どう戦うかといった部分がないという事は、「プロダクションとAV女優の関係性をこれまで通りに受け止めている」と解釈するよりなく、これでは警察の判断通りに「AV女優はプロダクションの管理下にある労働者である」と言っているも同然の内容である。

 したがって、逮捕リスク(不法行為)は据え置きで、ルールだけ増える事になるが、それでは業界をさらに窮屈にするだけなのではなかろうか。

 前回の法律解説を読み直して欲しいのだが、今後AVの撮影に関して不法行為が行われたと捜査対象にされた場合、容疑者になる可能性があるのは労働者派遣法違反から逃げられないプロダクションだけである。

 何故ならば、こうした声明を出した以上は、しばらくの間は撮影内容に問題がある(違法性が高い)作品は撮れなくなる可能性が高いので、強姦や強制わいせつ、または公然わいせつ等が成立するケースは考え難く、それならばAVメーカー・制作会社・女優・男優等は安全だからだ。

 早い話が、IPPAの声明は、AVメーカーがAVプロダクションに対し、さらに煮え湯を飲ませようとしているだけとしか受け取れないのである。

■AV業界が目指すべきカタチ

 連載も6回に突入し、文字量も多くなって来たので、そろそろまとめに入りたい。これまでに述べて来た内容を踏まえた上で「ではセックスワーク業界はどう動いて行けばいいのか」について考えてみよう。

 まずは「労働と有害業務」の部分をどうにかせねばならない。セックスワークを取り巻く矛盾を解消せぬまま新しいルールを設けても、それでは逮捕リスクを減らせぬばかりか、単にビジネスを狭める結果にしかならない。よって、どうせ新ルールを作るならば、それは「業界全体の違法性を薄めるもの」でなければならず、業界ルールだけではどうにもならないならば、法の改正に向けて動く必要がある。何を差し置いてもこれが第一だ。

 次に、何か被害を受けた場合や、活動する上で困った事があった場合の、ケースワーカー的な窓口の設置である。ここでは税金や保険料の払い方といった、社会人としての基本中の基本の部分も対応してあげる必要がある。これについては先日、元AV女優の川奈まり子氏から、女優のケア等を目的としたNPO団体を立ち上げると発表があったばかりだ。元AV女優が代表ならば色々と気付ける部分も多いだろうし、窓口として申し分のない存在になってくれそうだ。

また業界団体という事で言えば、IPPAをAVメーカー側の団体、川奈氏が作ろうとしている団体をAV女優側の団体と見た場合に、それだけではパーツが足りない。もっと業界の安全性を高めるのであれば、絶対に"プロダクション側の団体"も必要になる。現状でAVプロダクションだけが逮捕リスクを背負わされているも同然なのだから、プロダクション側に立った組織がメーカー側に対して「プロダクションの安全にも配慮しろ」すなわち「プロダクションに不法行為をさせるな」と言えないと、今後もプロダクションだけに「有害業務へのモデルの斡旋」という不法行為をさせ続け、それによって業界に金が回るという、不法行為を前提とするイビツな構造が続く事になる。

 AVプロダクションがAV女優を管理出来なければ、メーカーはAVを作って売るという経済活動が不可能なのだから、本来は対等な立場で安全への配慮をしなければおかしい。それが今の今ままで出来ていない現実を、業界人はなぜ不思議に思わなかったのだろう。そんな穴だらけの業界のどこが健全だと言うのか。

 IPPAの声明からも感じ取れるが、どうも今回のプロダクション摘発騒動に対して、メーカーや制作の側は「悪いのはプロダクションなのに、我々まで風評被害を受けて迷惑だ」と感じている気配が伺える。ところが、これが大間違いなのだ。

 どういう事がシンプルに説明すると、もし仮にどこかのプロダクションが「今後は所属するAV女優に不法行為(=性行為)はさせられません」と主張した場合に、メーカー側は何と言うだろうか。おそらく「本番も出来ないんじゃ商品にならないから、お前の所の女優は使わない」とでも言うだろう。ならば、プロダクションに不法行為をさせている、せざるを得ない状況を作っている、もっと言えば「不法行為を強要している」のはAVメーカーでありAV制作会社ではないのか。これに対処するのに、プロダクションが個別に大手メーカーと戦っても勝ち目がない。

 加えて言うならば「スカウトを誰が監視するのか」という問題点もある。スカウトマンは自分が口説き落とした子がギャラを稼いでくれれば、それが自分の収入になるので、どんなウソでも付くし、どんな無茶なやり方も平気でやってしまう。実はプロダクションに入ってくる前に、すでに事件の種は作られているのである。こうしたスカウトの暴走を監視し、「そういうやり方で捕まえて来た子は使えない」と業界としてNOと言うためにも、まずは業界への入り口に関所を設ける必要がある。その為にも、プロダクション側に立った団体が必要なのである。

 だが、こうした方法では結局のところ絶対の安全は得られない。というのも「何がどこまで有害業務と看做されるか事件化されてみないと解らない」からだ。一応は【性行為=性器への挿入】【準性行為=口淫や手淫など性行為以外の快楽行為】といった考え方は可能だが、警察がその気になったら何をどう解釈されるか解ったものではないため、誰かしらが逮捕されるという状況はまず変えられない。

 例えば、前バリを付けた疑似本番を義務付ければ性行為にはならないが、ゴムフェラなどは準性行為に含まれるのではないだろうか。オモチャを使ったプレイも女性器が絡む以上は準性行為と言われても仕方ない。では、これらのプレイ内容をすべて排除した形でAVが撮影できるだろうか。撮影して商品化するまでは可能だろうが、おそらくそんな商品は買って貰えないだろう。

 よって、いくらメーカー・プロダクション・女優という業界内団体の3すくみが完成したとしても、根本的な部分は変えられず、これまで通り結局は警察の思惑次第となる。もしこの部分を変えたいのならば、労働者派遣法の文面を変えるより方法がない。

■唯一の希望はエージェント制の導入

 もし労働者派遣法の改正を待つ余裕がなく、今すぐ状況を変えたいならば、残るアイデアは"エージェント制"しかない。AV女優を完全に個人事業主にしてしまい、AV女優が自前でスタッフを雇ってAV出演する形にし、"雇用者"という枠組みから外れてしまえばいい。すでにアメリカ等のポルノ業界がやっている事なので、お金の動かし方の手本や書面のテンプレートはすぐに用意できる。

 ただし、その場合はマネージメント・営業係から、車の運転手から、仕事に関わる様々なスタッフを、女優が自分で揃えて(雇って)いかねばならないので、最初の内は混乱もあるだろう。だが、プロダクションを廃業した人間達を上手く流用していけば、すぐに要領が掴めるはず。

 そうなった場合、AV女優とはこれまでのようにプロダクションに所属だけして、後は全部マネージャー任せという仕事ではなくなる。「カメラの前で裸になれれば誰でも出来る」という職業からは程遠いものになるので、覚悟と野心のある一部の女性しか務まらない。よってAV女優の絶対数が激減し、業界全体の発売本数が大幅に減り、潰れる制作会社が後を絶たなくなるだろう。そもそもランニングコストの掛かる"制作会社"という立場では誰もAVを作らず、監督個人に発注が落ちてくる形になるかもしれない。だが、本気で法をクリアしようと思ったらそれをやるしかないのだ。

 実は、このようなエージェント制に近い形で活動しているセックスワーカーはすでにあちこちにいる。例えば、元々はAV女優だったけれども、AVの仕事が少なくなってフリーランスになり、ストリップやSMショーなど、ショービジネスの世界へ転身した女性達だ。彼女達は個人的なツテで仕事の場所を得て、衣装から何から自前で用意して日本中を飛び回っている。また、風俗嬢の中にもこのような手法で活動している女性はいるし、AVを経由せずいきなりショービジネスの世界で働き出した女性もいる。彼女達こそが、現在の日本で最も安全で理想的な「個人事業主のセックスワーカー」だと言えるだろう。

Written by 荒井禎雄

Photo by StephaniePetraPhoto

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