田中角栄 日本が酔いしれた親分力(11)強引にもぎ取った「勝機」! (2/2ページ)

アサ芸プラス

 ニクソン大統領を囲んで、右に佐藤総理、左に田中が座って談笑を始めた。

 遅れて到着した佐藤文生代議士は、片言の英語で話しあう田中の背中越しに、テーブルのネームプレートを確認した。

 田中の座っている第1テーブルに座るメンバーは、前もって決められている。アメリカ側はニクソン大統領、ロジャーズ国務長官、キッシンジャー特別補佐官。そして日本側は、佐藤総理、福田外務大臣、牛場信彦駐米大使、佐藤文生である。

 田中は第1テーブルでなく、第3テーブルでスタンズ商務長官、ケネディ特使らと同席することになっていた。これは、明らかな割り込みである。

 案の定、田中の座っている席には「BUNSEI SATOH」というネームプレートがあった。驚いた佐藤文生は、3人の会話の隙を見つけ、田中の袖をおそるおそる引いた。

「大臣、お席が‥‥」

 ところが、興奮で赤くなっている顔をふりむけた田中は、佐藤文生を睨みつけるようにして言った。

「わかっている! わかってるよ。これでいいんだ。いいんだ。一生恩に着る。これでいいんだ」

 佐藤文生は、とっさに察した。

〈今、日本の次期総理大臣の椅子を巡っての大政治ドラマが繰り広げられているのだ〉

 少し遅れて入ってきた福田は、驚愕した。田中が、ニクソン大統領の隣で談笑しているではないか。福田は、今一度眼を凝らして田中の姿を確認した。見まちがいではない。

〈一体何が起こったのか〉

 田中は、口をへの字に結び、三白眼を宙にさまよわせた福田を尻目にニクソン大統領に、「次の総理は私です」と言わんばかりに己を売り込み続けた。

 田中は翌日、宿泊先のリゾートホテルのロビーで、「ニューヨーク・タイムズ」に眼を通しながらほくそ笑んだ。日米会談を伝える記事が一面トップを飾っている。そこには、ホワイトハウス提供の昼食会の写真が大きく載っていて、談笑する佐藤総理、ニクソン大統領、田中の3人の顔しかなかった。ライバルである福田の顔はなかった‥‥。

作家:大下英治

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