人が動く! 人を動かす! 「田中角栄」侠(おとこ)の処世 第37回 (1/2ページ)

週刊実話

 景気の悪化、国民生活への深刻な影響を招きかねない「山一證券」の倒産危機、予想される証券市場の大混乱を前に、いよいよ田中角栄大蔵大臣の大バクチが打たれた。蔵相として繰り出したまずはの「最善策」が機能せず、田中が決断の際に常に用意する「次善の策」「三善の策」の“投入”ということであった。「最善策」としてまず出した「大蔵省として責任をもって万全の事態鎮静に努めるので国民は冷静でいてほしい」との蔵相談話が効果を生まないのであればと、山一のメインバンクの富士、三菱、日本興業の主力銀行3行の融資、救済を“強要”したのである。

 ところが、これを受けた山一とメインバンクの3行の協議は行われたものの銀行側が応じず、協議は決裂となった。山一は大蔵省に、もはやこれまで、「倒産覚悟」を伝えた。田中の動きは、常に素早い。山一が「白旗」を伝えたその日の夜、3行の頭取を呼び、大蔵省側との最終談判の場を持った。場所は東京・赤坂の日本銀行氷川寮の一室。息詰まるドラマは田中が国会で時間を取られていたことから、夜9時を回った頃に始まった。出席者は大蔵省側から田中蔵相、佐藤一郎事務次官、高橋俊英銀行局長、加治木俊道財務官、メインバンク側からは岩佐凱実富士銀行頭取、田実渉三菱銀行頭取、中山素平日本興業銀行頭取、そして、日銀からは宇佐美洵総裁ではなく佐々木直副総裁であった。
 ここで、日銀側があえて副総裁が出席したのには理由があった。宇佐美総裁としてはメインバンクが責任回避をした場合、最後は日銀に泣き付くのでは、との警戒感があった。その「日銀特融」を総裁としてスンナリのむことはよしとしない上で、宇佐美は田中と何かとライバル視されていた福田赳夫(後に首相)に近い佐々木を出席させることで日銀側の“抵抗”を試みたとの見方もあったのだった。

 案の定、メインバンク側は融資に抵抗、会議は難航、田中における「次善の策」は崩れたかに見えたが、ここで巧緻極まる「三善の策」、すなわち田中一流の「芸」が出た。田中はとりわけ親しい中山興銀頭取に、まずこう話を振った。「どうだ、興銀で200億円出さんか」と。中山が答えた。「そのくらいなら出せますよ。しかし、つぶれそうな会社に200億円も出すようなことになれば、次の日に私は頭取を辞めます。

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