83歳筆者の〈極私的鑑賞ノート〉(4)...黒木和雄「TOMORROW/明日」に、戦争の理不尽を思う (4/6ページ)
でも、気持ちいい」というもので、これが、この少年の青い性の目覚めなのであろう。
また、街の路上では、ちょっと頭のイカレたような青年が、子どもたちにはやされて、棒きれを振り回しチャンバラごっこの様子だ。そこを通り掛かる市電の運転手、水本(なべおさみ)は時刻を確認しながら、正確に次の停留場に到着し、そこで彼の妻(入江若葉?)から愛妻弁当を受け取って、終点に向かい注意深く電車を運行して行く。
また、ある庶民の家では結婚式の準備がされている。続きの、二間の畳部屋の境の障子を取り外し、俄作りの宴会場を整え、なけなしの食材を苦労して集め、披露宴の料理を準備しているのは、新婦ヤエ(南果歩)の母(馬淵晴子)や姉のツル子(桃井かおり)だ、その当時は既に滅多にお目に掛かれなくなった小豆あんの缶詰を開けたりしながら...。そして、ツル子は臨月で大きなお腹を抱えていて、結婚式の最中に陣痛が起こったりするが、実際の出産で男の子が産まれたのは9日の夜明けだった。その母子の幸せな時間の数時間後に何が起こったか?を識っているのは、我々観客だけである。
結婚式では、親類縁者や近隣の列席者が集まっているのに、新婦の看護婦ヤエだけが病院の引き継ぎで遅れ、汗を掻きながら到着し、空襲警報が発令されない前に、と慌ただしく式が始まる。
身体の余り丈夫ではない新郎の、工員、中川を演じたのは佐野史郎であり、(ここまで紹介した以外の主な)登場人物で、結婚式に列席していた面々は、ヤエの妹の昭子(仙道敦子)、 ヤエの父、泰一郎(長門裕之)、中川の友人で、俘虜収容所勤務の石原継夫(黒田アーサー)、写真屋の銅打(田中邦衛)、ヤエの同僚看護婦、亜矢(水島かおり)、もう一人の同僚看護婦、春子(森永ひとみ)である。
昭子は恋人の長崎医大生、英雄(岡野進一郎)から赤紙(召集令状)が来たので、「駆け落ちしよう」と持ちかけられるが、到底そんなことは出来ない。彼らに今、出来ることは、天主堂の裏の草むらで、抱き合って泣くしか無い。だが、駆け落ちしなかったことが翌日の彼らの運命を分けたかも知れない?ことに観客は思いを馳せる。
また、同僚看護婦の一人、亜矢にも恋人がいたが、呉に出掛けた恋人からは、40日経っても何の連絡も来ない。