人が動く! 人を動かす! 「田中角栄」侠(おとこ)の処世 第58回 (1/2ページ)
政権浮揚を懸けた東南アジア歴訪も完全にウラ目、内憂外患これに尽きた感のある田中角栄は、昭和48年5月、東京・日本武道館における「田中総理を励ます新潟県人の集い」に出席した。郷土の英雄、総理ガンバレとの新潟県人による激励会であった。それにしても、あの日本武道館で激励会とは何とも“剛毅”な集いであり、郷里での田中人気の根強さを窺わせた。武道館は満員、熱気に溢れたものであった。
田中はこの支持者の熱い思いに生気を取り戻したように、時に顔を紅潮させ、熱弁を振るったものである。筆者はこれを取材しているので、いささか長いが、以下、演説の大半を記してみる。
「新潟県の皆さん! すっかりご無沙汰しております。日頃から、私のためにご支援ご鞭撻を頂いている皆さんが、このような形で私を励まして下さることは、本当にありがたいことである。私がこんな晴れがましい席で、公の形で激励を賜ることは、今から35年前ッ、昭和14年春ッ、私が現役兵として入営したとき以来、初めてのことであります。私は心暖まるふるさとの心に接し、しみじみたる思いであります。
私が皆さんの支援を得て、内閣を組織いたしましてから、2年の月日が経とうとしております。内閣総理大臣に就任した際、『前線に向かう一兵卒のような気持ちだ』と言ったことがありますが、それはつい昨日のような気がするのであります。そして、そのときの心境は2年後の今日も、まったく変わっていないのであります。国民の皆さんと手を携えて歩み、国民のための政策を勇断をもって実行していくことは、極めて重い責任を伴うのであります。私は過ぎ来し方を顧みながら、その重みを改めて心に刻みつつ、前進を続けてまいる決意であります!
この2年間は、人類悠久の歴史の中にあっては、まばたきするほどの時間に過ぎません。しかしッ、世界が新たな転換の時代を迎えているときだけに、かつて私どもが経験したことのない激動が、相次いで起こった長い2年間であったとも言えるのであります。世界は緊張緩和の方向に進みながら、一方で新しい国際秩序の確立に、いわば産みの苦しみを味わっております。