世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第226回 プライマリーバランス目標と経路依存性 (1/3ページ)

週刊実話

 経路依存性とは、もともとはW・ブライアン・アーサーらによって展開された収穫逓増経済の理論における“自己強化メカニズム”の一部になる。収穫逓増とは、経済学が前提にする収穫逓減とは真逆で、投じられた資本や技術からの単位当たり収穫(利益)が増加していくメカニズムになる。
 アーサーは収穫逓増という、一種の自己強化メカニズムの特質の一つとして、経路依存性について、
 「小さな出来事や偶然により決まった初期のマーケットシェアが、その後も支配的になること」
 と、説明している。

 もっとも、経路依存性は企業のマーケットシェアの継続性のみならず、政治プロセスにおいても多々見られる現象である。
 何らかの理由で、一旦、政治的な路線が決まる。その後、その路線が固定化されてしまい、さらに「人々がそのルートに沿って行動する」ようになり、特定の路線がひたすら強化されていく。

 もちろん、決定された政治的なルートが「経世済民」に即しているならば、放置しておいても構わない。とはいえ、少なくとも昨今、話題になっている「プライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化目標」は、日本国にとって間違った路線だ。それにもかかわらず、多くの政治家や官僚、財界人、学者が「PB黒字化」路線に固執する。
 彼らにとって、重要なのは「事前に決められている」PB黒字化という経路を進むことなのだ。なぜ、彼らが執拗にPB黒字化を主張するのか。過去に、PB黒字化の経路を歩いてきたためだ。さらに彼らがその経路を進むことで、経路依存性がより一層、深刻化していくわけである。

 PB黒字化論者にとって、
 「財政健全化の定義は、政府の負債対GDP比率の低下であり、PBは負債対GDP比率を決定する一要因にすぎない」
 「PB黒字化路線に固執すると、日本経済がデフレ化し、かえってPB赤字を拡大する可能性がある」
 「そもそも、政府の負債が100%日本円建てで、日本政府の子会社の日本銀行が大量に国債を買っている以上、財政健全化はすでに達成されている」
 といった“事実”は、非常に都合が悪い。
 というわけで、PB黒字化論者はこれらの事実からは目を背け、「PB黒字化が正しいのだ」という理論を懸命に見つけ出そうとする。

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