天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 大平正芳・志げ子夫人(下) (1/2ページ)

週刊実話

 大平正芳という男は、政治家というよりむしろ「求道者」「哲学者」といった面持ちがあったことは前回記した。政治家という“人種”は一計を案じたり、前へ前へ出たがる性癖の固まりだが、生マジメな大平はそうしたこととは無縁であった。趣味は読書で、その読書量は半端でなく、古今東西のそれは、ほとんど読み尽くしたという「碩学」であった。
 ために、生涯、「盟友」関係にあった田中角栄元首相などは、大平がのちに総裁選に出馬したときも、大平がほとんど動くことがなかったことから、しょうがねェなという顔をし、友情を込めて「アイツは宗教家だからウチが動かねば勝負にならん」と、田中派の面々を叱咤激励、自らも多数派工作に汗を流したといった具合だった。

 筆者は、いまから40年近く前の大平が総理になる直前、どのくらいの「碩学」ぶりなのかを確認するため、実弟が管理する大平生地の香川県観音寺市の大平の蔵書を保管している『大平文庫』を取材したことがあったが、なんとも仰天した思い出がある。蔵書数1万冊弱、しかも1冊たりともページをめくらなかった形跡はなく、古今東西の政治、哲学、宗教関係から推理小説、クイズ本、果てはセックスに関するものまで、なまじの図書館も顔負けといった風情だった。

 さて、こうした若き大蔵官僚の大平を買っていたのは、大蔵省の先輩でのちに「高度経済成長」を引っさげ、総理として戦後日本の復興にチャレンジした池田勇人であった。池田は生マジメ、物事にすべからく慎重だったこの大平を、妙にかわいがった。大蔵大臣時にはしぶる大平を「まあ部屋にいるだけでいいから」と大臣秘書官に抜擢、その後、自分が政治家になると、今度は大平を「国政に出ろ」と尻を叩いたのである。ここでも大平は「私はその任にあらず」としぶったが、半ば強引に衆院選出馬を決められてしまったのだった。

 筆者は、およそ政治家には向かぬ(?)大平の〈旧香川2区〉の選挙戦はどういうものだったのかも取材している。大平らしいエピソードが、多々聞こえたのだった。支援者の証言である。
 「初出馬のとき、なんとも演説がカタイんですワ。田舎のジイサン、バアサンの集まっているところで、面白くもない財政問題をくそマジメにしゃべっておる。最後には、聴衆のほとんどが寝ておった。

「天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 大平正芳・志げ子夫人(下)」のページです。デイリーニュースオンラインは、社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る