世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第268回 ヒトを「安く買い叩く」ために (1/3ページ)

週刊実話

 主流派経済学は「失業」を認めたがらない。厳密には「非・自発的失業」を認めないのである。
 失業者はすべて「自発的」な失業者。彼らは自発的に失業しているにすぎないのだから、財政出動で雇用対策などは打ってはならない。なぜならば、ムダだから。自発的に働かないという選択をしている以上、財政で仕事が増えたとしても、彼らは職には就かない。
 雇用環境は、常に完全雇用である。もし、それでも多少の失業があるのだとしたら、それは構造的な失業である。もしくは失業者の能力と雇用者側の要求との間に「雇用のミスマッチ」があるためだ。というわけで、対策は財政政策ではなく、職業教育と就業者の解雇を容易にする雇用の流動性強化だ。ヒトを簡単に解雇できるようにすれば、むしろ失業率は上昇する。

 と、まあ、上記が主流派経済学の雇用に対する考え方である。日本の内閣府や日本銀行の「完全雇用の失業率」も、完全に上記を踏襲してしまっている。
 日本銀行が「日本の完全雇用の失業率は3.5%」と、世迷言としか言いようがない基準を採用しているのは、過去の失業率の平均をとる「構造的失業率」が3.5%になるためだ。ちなみに「過去」の長さは、組織によって変わる。
 左図(※本誌参照)は「過去10年」で計算した平均失業率になる。日銀の基準でいえば、現在は「完全雇用を下回る失業率」という、意味不明な状況になってしまうわけだ。過去のデータを見る限り、わが国の完全雇用の失業率は「2%」であろう。つまりは、現在の失業率(2.5%)であっても、いまだ完全雇用には達していない。
 お分かりだろうが、構造的失業率は現実の失業率に応じて変わっていく。この構造的失業率が、経済学のいう「完全雇用における失業率」なのだ。デフレーションにより雇用環境が悪化すれば、当たり前の話として構造的失業率は上昇する。すなわち、完全雇用における失業率も上がってしまうのだ。

 上記の考え方がいかにおかしいのか、アスリートを例にすれば理解できる。例えば、100メートル走の選手が、
 「あなたの最高タイムは何秒ですか?」
 と、問われ、
 「わたくしの平均タイムは10.8秒です」
 と、返答するようなものだ。
 実際には、この選手の最高タイムは100メートル10秒になる。

「世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第268回 ヒトを「安く買い叩く」ために」のページです。デイリーニュースオンラインは、社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧