【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第14話 (2/4ページ)
「何をしていんす」
「俺たちの月見は、この荷の中だぜ」
「え?」
「この中に、月が宿っていンのさ」
前回、月見の日に国芳がみつの事を描いた絵が、錦絵として刷り上がったのである。
版元の江崎屋と近江屋の旦那の意見が合わずに兄さんも苦心していたが、なんとか今日に間に合ったぜ。佐吉はそう言って中身をひらりと一枚、みつに手渡した。
国芳「あふみや紋彦」国会図書館蔵
みつは無造作に渡されたそれを受け取り、一目見るなり、黙り込んだ。
「どうだえ」
「・・・・・・・・・・・・」
手渡した絵の中で、みつがしどけなく横座りしている。背後には連子窓があり、青竹の柵の隙間から月の光が差し込んで、画面いっぱいに放射線状に広がるさまが、陰翳(かげ)によって巧みに示されている。その広がりが絵にいのちを吹き込み、迫真性を持たせた。
(あたしがいる)
とみつは思った。
(あたしの陰翳が、床に落ちてる)
(あたしの背中に差しているのは、これは、光・・・・・・?)
「面白いよ」、
静かに口を開いたみつの表情を見て、佐吉は思った。
この女の笑顔は月の光よりも、江戸の朝を照らす太陽よりも、ずっと眩しい。
「この絵、面白い。あたし、知らなかった。
