【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第15話 (2/4ページ)
「芳さんは良くっても、花魁はずっと芳さんを待ってるぜ」・・・・・・
「あ?なんつった?」
「いンや、何でもねえ」
ははは、と佐吉は笑い、
「さア、両国橋まで駆け比べだ」
とぱっと下駄を脱いで帯に差すと、はだしで駆け出した。
画像 歌川国芳「あふみや紋彦」国会図書館蔵
少し後の話だが、みつを主体とした錦絵「雪月花の月 あふみや紋彦」はその後、光と陰翳が放射状に広がる面白さでちょっとした話題となり、隅田川土手の近江屋の宣伝に大いに貢献した。
また、国芳が画中の手ぬぐいにこっそり「おみ津」という文字を入れたことから、「このおみつという美人はどこにいるのか」とあちこち探し回る男が出た。かの歌麿の美人絵は、描かれた女がかならず実在したために、当時は本人探しが随分流行った。まさか自分の絵でそれが起ころうとは、国芳はこの時まだ夢にも思っていない。
「おい!てめえ、なんだって急に駆け出すんでえ」
両国橋の真ん中でようやく追いついた国芳は、膝に手をつき呼吸を弾ませながら佐吉をなじった。

