【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第21話 (2/5ページ)
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久しぶりの旨い飯と火鉢の暖かさで芳三郎の身体が芯からほかほかと温まったところで、
「さて、続きを話そう。国貞兄さんの事だ」。
猫のように丸くなろうとしていた芳三郎の背筋が、国直の一言でぴりっと伸びた。
「おめえには酷な話だが、あの人アは天才だよ。迸る才気、努力の量に裏付けられた腕、時流に乗る運の強さ。父っつぁんを超すッつう評判を得た弟子は俺の知る限り二人目だ。ま、見ての通りあの人の腕にゃア父っつぁんもベタ惚れさアな。そんな人を超えてえと思うなら、とにかく頑張って描いて描いて、手がもげるくらい描き続けるしかねえなあ」
「・・・・・・。」
「頑張りすぎてぶっ倒れる頃に、ようやく父っつぁんは絵の相手をしてくれるかもしれねえ。努力してかならず父っつぁんが相手にしてくれる保証はねえが、これだけは言える。努力しねえ奴を父っつぁんが目にかけた事アねえ。努力しねえ奴は、勝負する前にそもそも土俵にあがれねえ」
国直は自分の言葉に頷き、更に続けた。
「正直、こんな辛え事アねえ。真っ暗な道を正しいかも分からず走り続けなきゃならねえんだ。努力の分だけ報われる保証はねえ。努力を重ねても、入るもんが懐に入って来なけりゃ意味がねえ。そんな不安定な毎日に耐えきれなくなる野郎も中にゃアいる。天下の歌川豊国の門下でも、妬み嫉みはあるもんでね。俺ア三馬と組んで初めて売れた時に、目エやられかけた」
国直は、左目の横に薄っすら走る引き攣れた傷痕を指した。火箸でも押し付けられたような痕である。孫三郎の背筋にヒヤリと冷たいものが走った。
「誰が、そんな酷え事・・・・・・」
「知らねえ」
国直がかぶりを振った。
