【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第21話 (3/5ページ)
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「暴いたところで、兄弟子の誰かを可哀相な末路に追い込む事になるだけだ。そんなのぞっとしねえ。だからこそ、この腕はそういう卑怯な者共から俺の大事な弟分たちを守るために鍛えたのよ」
太い腕っぷしをパンと叩いて国直は微笑した。
「もう一度聞くよ。てめえは本気で頑張る覚悟、あるか?」
国直の瞳の奥の鋭い光が、芳三郎の目を射抜いた。
芳三郎は大きく頷いた。
「辛えぞ?」
「平気でえ」
「そうか。そんならおめえは今日から辛い修行に入る。絵師の道行は沼のように深くて先が見えねえ。おめえは色々な事を犠牲にしなきゃならねえよ。俺たちア家族も色恋も遊びも何もかも一番にゃアできねえ。だが、その代わりにもし本気で頑張るおめえに手を出すような輩がいれば、俺がこの腕で守ってやる。だから」、
国直は目に沁みるような笑顔をした。
「芳は安心して、絵を描きな」。
垂れた目尻が優しく、頼もしかった。
「さあ、今日はもうしめえだ。寝よう」
国直は魚油くさい行燈をふっと吹き消した。
江戸の夜は暗く、長い。
灯を点けようとすると油代が馬鹿にならないので、夜はさっさと寝るに限る。
「・・・・・・鯛兄イ」
ひと月ぶりに夜着に包まり、その柔らかさに感動してすっかり寝付けなくなった芳三郎は、訊いた。
「父っつぁんの腕を超えると言われたなア、国貞兄さんで二人目だと言ったかえ」
「ああ、言ったな」
「そんなら、一人目ア誰なんだ」
「それア、国政の兄さんだ」
(ああ、あの張り子のお面の。・・・・・・)
「よくできた兄さんだったよ。
