【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第26話 (2/6ページ)
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龍は不思議な光を宿した目でみつを一瞥すると、みつを攫って窓を突き破り、果てしない江戸の夜空を巻き上げる青嵐のように高く遠く躍り出た。
みつは振り落とされまいと、必死に龍の身体にしがみついた。
雲よりも高く空よりも広い大気の中を、龍とみつは稲妻のごとく疾駆した。玻璃の花びらのような龍鱗の一つ一つがザアアッと風に逆立ち、不思議な光彩を放った。みつの目は十数年ぶりに廓の外の、江戸の町を映していた。
歌川広重「名所江戸百景 する賀てふ」Wikipediaより
「あんた、どこに行くの」
みつは遥か下に江戸の町を望みながら、叫ぶようにして呼びかけた。
巨大な龍は何一つ答えずに、名前もない大空の狭間を真っ直ぐ貫き続ける。
「まあいいか、」
とみつは独りごちた。
どこでも、いいか。
「あんたと一緒なら、どこへでも飛んでゆける気がする」
ねえ、
「国芳はん」。・・・・・・
みつが微笑み、二人は爽やかな甘酸っぱい夏の匂いの只中にドボンと頭から飛び込んだ。
そしてそこで、目が覚めた。
視界には、いつもの色のない岡本屋の格子天井が広がっている。