【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第26話 (4/6ページ)
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小説
(今あたしが死んだって、きっと紫野灯籠とはならないもの。・・・・・・)
色の映らない瞳の中で、丸い花灯籠が風に吹かれて根無し草のようにふわふわと揺蕩った。
「姐さん、十三日の休みにさあ、会うの?」
妹の一言に、みつは虚を突かれた。
「え?」
だからあ、と美のるはみつの耳もとにくちびるを寄せて、
「あの人と」。・・・・・・
勘の良いいたずらな目が、みつを覗き込んでにっこりした。
「知らないよ。そんなの」
痛い所を突かれたみつはむきになって、手ぬぐいの先に結んだ赤い紅葉袋(ぬかぶくろ)でぺちんと美のるを叩いた。
湯から上がって岡本屋に戻ると、飼い猫のぶちが擦り寄ってきた。抱き寄せると、首輪に何か文が付いている。
慌てて開くと、男の字で「十三日、忍ぶ」と書かれていた。右下には小さく七夕の笹の絵が添えられている。
「ぶち、これ、どこで!?」
訊いても、ぶちはにゃあと鳴くだけだ。もしかするとぶちはみつの見たこともない吉原の外の世界にまで出掛けているのかも知れない。
(国芳はんだ・・・・・・!)
喜びのあまりぶちを抱きしめると、ぶちは嫌がって爪を立てて腕の中から逃げ出した。
・・・・・・
少しすると、国芳が文に描いたような七夕の笹が吉原じゅうの女郎屋の屋根に立てられた。