【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第26話 (6/6ページ)
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「まあ、この子達ときたらいちいち一枚ずつ姐さんたちの書いた短冊を読んだのかえ。そんな暇どこにあるのかしら。・・・あら、おりんももう字が読めるの?」
岡本屋で一等年齢の幼い六つのりんも、生え替わりで前歯の抜けたひょうきんな顔でにいっと笑った。
子どもたちの言う通り、今年の短冊には正直に歌川国芳の名を書いた。
去年は気が引けて書けなかったが自分でも始末に困る想いが日に日に募って、今年はついに神仏どころかまじないめいた七夕の短冊にまで願ってしまった。
みつは子どもたちと目線を合わせ、それぞれの顔を見ながら、
「皆、毎朝神棚の神様に、手を合わせてご唱和するでしょう?」
「あい」
「その時に、心の中であたしがその人と上手く行きますようにって、お願いしてくれる?」
子どもたちは全員顔を見合わせて、嬉しそうに何度も頷いた。ここに寝食する子どもたちは毎日、姉女郎の惚れた腫れたの話を肴に美味しい美味しいと米をかきこむくらいだから、こんな事を頼まれると俄然張り切ってしまう。廓育ちのみつは、勿論その事をよく知っている。
「もしも上手く行ったら、皆いんなにべっ甲の簪買ってあげる。ね?だからこの事は他の姐さんには内緒だからね」
子どもたちは、何か重要な仕事を仰せつかったような表情で、あい、とあどけない返事をした。
トップ画像:歌川広重「市中繁栄七夕祭」Wikipediaより
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