【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第26話 (5/6ページ)
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小説
歌川広重「市中繁栄七夕祭」Wikipediaより
青い空に届きそうなほど高く長い笹である。飾りは色紙で作った網飾りや吹き流し、客を招くという験担ぎの扇、または吉原の路傍のそこかしこに生えている鬼灯(ほおずき)の実を数珠つなぎにしたものなどだ。もちろん願い事の短冊も飾ったが、吉原は吉原らしく、短冊には好きな男または一番懇意にしている客の名をしたためる。みつが暮らす京町一丁目の岡本屋も、例に漏れず七月六日の夜中に屋根に笹を立てた。
「姐さん、姐さん」
七日の昼四つ時(午前十時)、岡本屋の花魁部屋では子どもたちがみつのまわりでうるさく囀っている。
みつは花魁のくせに姉女郎の中で一等気さくでちっとも怒らないから、禿(かむろ)やらまだ幼い見習い女郎たちがひどく懐いて、袖を引いたり膝の上に乗って来たりと常にみつにまとわりついてくる。
「なあに、どうしたの」
「姐さん、好きな人が出来たんでござんしょう」
まだ八つか九つの子どもたちが誰に吹き込まれたのか、ませた口ぶりでにこにこ言う。
「まあ、誰に聞いたの」
みつが目を丸くすると、誰にも、と子どもたちは首を振った。
「だって、知らない殿方のお名前がありんしたもの。・・・・・・」
そう言って小さな指が差したのは連子窓の外、空高くあがった七夕の青笹である。