百田尚樹『日本国紀』よんでみた:ロマン優光連載122 (2/5ページ)

ブッチNEWS

 面白味には欠けるが奇妙な本である。幕末以降に関しては、いつもの百田節ともいうべき、ネット上に蔓延している平凡な歴史修正主義的な『ネトウヨ』と揶揄されそうな歴史観が披露されている。本当にいつものあれであって、テンプレをそのまま貼り付けた感じであり、これだったら市井の保守・右翼論客の中に、より扇情的で説得力のあるものが書ける人間もいることだろう。他人の意見をなぞってるだけの百田氏に対して怒る保守・右翼論客が多数現れないのが不思議でならない。
 それに対して、前半の古代~江戸時代にかけてのパートは、あちこちから摘まんできたような説が未整理に並べられているような印象を受ける。「 神話とともに誕生し、万世一系の天皇を中心に、 独自の発展を遂げてきた、私たちの国・日本。」という売り文句で売られているのにも関わらず、百田氏はいきなり王朝交代説をとなえる。定番の継体天皇だけではなく、応神天皇の際に王朝交代があったという説に対しても説得力があると考えているようなので、二度王朝が交代した可能性が高いという説を持っているということになる。万世一系の天皇家という話はどこにいったのだろう?
  日本では古来から万世一系という概念を尊んでいたため、継体天皇も応神天皇の子孫を名乗らざるを得なかったという見解を示しているわけだが、なぜ日本では万世一系という概念を古来から尊んできたのか、なぜ万世一系という概念を尊ぶことが素晴らしいことなのかについては、ちゃんとした論が書かれているわけではない。ここのところが本来であれば重大になるはずなのだが、ぼんやりとしたままである。天皇と日本の関係性について真摯に考えているとは、とうてい思えない。なんというか、単純に勉強不足なのであろう。ちゃんとしてほしい。
 百田氏の政治的発言、歴史に対する発言というのは、根底に強固な思想があるというよりは、人付き合いやビジネスの中でのポジション・トークであったり、単純に「ウケるから」といったものから発生している節がある。過剰に差別的な発言や、大げさなデマといったものも、あれはウケるから言ってるだけなのではないだろうか? 根底に思想がないから、雑に天皇を扱ってしまったり、「こっちの方が面白い」という理由でリベラル的な史観に基づくともいえる説を採用してしまうのではないか。

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