芸術の対象として豊かな表現で魅力的に描かれる地獄とワンパターンな天国 (1/3ページ)

心に残る家族葬

芸術の対象として豊かな表現で魅力的に描かれる地獄とワンパターンな天国

平安時代の末から鎌倉時代にかけ、地獄絵、六道絵などと言われるものが流行した。仏教の教えが滅亡する終末論=末法思想による厭世観が大きかったと思われるが、そこに表現されるあまたの地獄絵は芸術としての価値が非常に高い。地獄絵は魅力に満ちている。地獄絵は世界中にみられる。そのいずれも対極にある極楽・天国のそれに比べて表現が緻密で豊かである。なぜ人は地獄に惹かれるのか。

■地獄の仕組み

源信(942~1017)の「往生要集」によると、地獄にはいくつかの階層がある。身体をバラバラに切り刻まれては生き返り、また繰り返される「等活地獄」、阿鼻叫喚の語源となった「阿鼻地獄」など、下の層に行くほど罪が重くなる様子が精密に描かれている。12世紀の絵巻物「地獄草子」をはじめ、現存する地獄絵には、こうした地獄の光景が鬼気迫る迫力で我々に暗くも激しい情念をぶつけてくる。

ダンテ(1265~1321)の「神曲」地獄編で描かれている地獄も似た構造である。第1層から9層まであり、下層になるほど罪が重くなるのも同じで、閻魔大王に相当する裁判官・ミーノス、魔王プルート、地獄の番犬ケルベロスなどは有名だ。最下層のコキュ―トスにはその昔天界から追放された堕天使ルシファー(サタン)が封じられており、イエス=キリストを売ったユダ、カエサルを裏切ったブルータスらが、ルシファーに責苦を負わされている。いずれも地獄の悪鬼・獄卒どもに拷問される亡者の表情は苦痛と悲哀に満ちており、科学の発達していない時代においては、さぞ恐怖であったろうと思う。この想像力はどこから来たものか。

■現実の地獄

元々仏教における地獄とは「六道」のひとつである。地獄・畜生・餓鬼・修羅・人・天の六つの世界であるが、人間の魂はこの六道のどこかに生まれ変わるという。これを「六道輪廻」と呼ぶ。この六道を描いた絵画が「六道絵」で、地獄絵はそのひとつをフォーカスしたものである。六道の中でも地獄の惨状は凄まじいが、地獄以外の五道も苦痛に満ちている。

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