「いかに美しく負けさせるかに心を砕いた」 全てを詰め込んだ競馬エンタメ巨編を早見和真が語る (3/5ページ)

新刊JP

でも、憧れる大好きな作家さんたちのインタビューを読むと、「書くことが楽しくて仕方ない」と言ったりしている。
で、ちょうど新潮社の人間3、4人と飲んでいるときに、「彼らが羨ましい。みんな天才で、俺は凡人だ」といつもの愚痴を言っていたら、飲み会に参加していた一人が、「前に出した『イノセント・デイズ』が売れていることだし、ご褒美的に早見さんが人生で一番楽しかったことを書いたらいいんじゃないですか?」と言ってくれたんです。

楽しかったことってなんだっけと思ったときに、思い浮かんだ1つ目は野球。確かに人生をかけてやってきたけれど、野球は僕を幸せにしてくれなかったし、苦しい記憶しかない。2つ目は恋愛。でも、女の子は僕を傷つけてばかりだし、特別に良い記憶はない。そこで浮かんだのが競馬だったんです。

競馬の魅力の一つは「思いの継承」で、一つ前の世代が成し遂げられなかったことが次の世代に託されて、でもだいたいは返り討ちにあう。さらにその思いが継承され…ということが片側にあったとしたら、もう片方には父親と息子の話を織り込めると思いました。これはデビュー以来一貫しているテーマなのですが、表立って表現していたわけではなかったんです。だから、いつかその関係を表のテーマに据えて書かないといけないと思っていたところに、この競馬の魅力と絡み合ったという感じですね。

■取材で仲良くなったジョッキーに調査依頼!? ――執筆にあたっては、かなり綿密に取材されたとうかがっています。

早見:競馬には一口馬主という擬似馬主システムがあって、馬主登録されていない人でも、ある一頭の馬を共同で出資して保有することができるんです。一頭につき多くてのべ500人くらいかな。ちょっとでも馬主の気分を味わおうと、一口馬主を募集している全クラブのカタログを取り寄せました。選定の基準はとにかく派手で顔つきのいい馬です。自分のビギナーズラックには自信があったので、迷いもなく決められました。

その馬はデビュー戦こそ惨敗しましたが、その後は勝ち負けを繰り返し、最高クラスのオープン馬まで出世し、天皇賞を走るまでに成長をしてくれました。

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