「いかに美しく負けさせるかに心を砕いた」 全てを詰め込んだ競馬エンタメ巨編を早見和真が語る (4/5ページ)
ロードヴァンドールという名前が付けられているんですけど、その馬がいろんな景色を見せてくれたんですよね。それこそ、G1レースのパドックも見せてもらったし、勝った時の誇らしい気持ち、微妙な選民意識が芽生えていることも感じました。自分自身は何も成し遂げていないけれど、いろんな気持ちにさせられた。その部分はかなり色濃く反映していますね。
――馬に自分自身の想いを乗せているような感覚ですか。早見:そうですね。僕は一口馬主でしかないけれど、出会いから育成までずっと立ち会ってきた個人馬主さんはそりゃもっと気持ちを入れ込むだろうなと。
――第一部の中心人物である山王は孤独な人間ですよね。社長でもあり、馬主でもありますが、馬しか信じられないというような。早見:山王耕造の印象は、おそらく読み進めていく中で変わっていくと思います。その変化は、僕が取材をした馬主さんに対する印象の変遷と合致していると思うんです。もともと僕も、成金で胡散臭い人が多いという偏見を持っていましたけど、いざその世界に飛び込んで話をしてみると、本当に思いが純粋で、子どものようなことを言っていたりするんですね。馬自身の幸せを純粋に願っているし、なんだかかわいい人たちだなと感じてくる。
――確かに山王の印象は変わりますね。強い人間から弱い人間にだんだん変化していくし。早見:それは取材の賜物ですね。ロードヴァンドールの出世も、早朝の中山競馬場を歩かせてもらったことも、競走馬の牧場を巡ったことも、馬主さん10人ほどにお話を聞かせてもらったことも、全て正しく反映できた小説です。
―― 一方で第二部の中心人物である耕一はまだ20代と若いですが、最初の印象はかなり鋭い視点を持った好人物でした。物語が進むにつれてその印象が変わっていくわけですが、実際に彼のような若い馬主もいるんですか?早見:20代はあまりいないですが、30代でデータを駆使している馬主さんはいますね。それで、旧世代の価値観を否定している。もちろん耕一はその人をモデルにしたわけではなくて、自然と立ち上がったキャラクターですが。